上述の通り、著作権の「非親告罪化」は以前から議論されていました。著作権の「非親告罪化」とは、これまで著作権事件の公訴には著作権者等の告訴が必要であったところ、「著作権者などの告訴がなくても公訴できるようにする」ということです。この「非親告罪化」については、著作物がより保護されるようになるという利点がある一方、法律適用(捜査)面における懸念や、産業面における懸念があります。
法律適用(捜査)面の懸念は、捜査機関が特定の人物を著作権侵害により別件逮捕するなど、恣意的な適用についての懸念です。杞憂に過ぎないかもしれませんが、少なくとも創作者が萎縮する可能性がないとはいえません。そして、これは産業面における懸念にもつながります。
産業面においては、まず、海賊版などの排除に苦労している企業は「非親告罪化」に賛成でしょう。TPPにおいて、「故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない(文化庁資料より)」として、「複製等」については「非親告罪化」で合意されています。「非親告罪化」は、海賊版被害が大きい(さらに政治的に影響力のある)映画産業などからの要望であるともいわれています。
逆に「非親告罪化」をあまり喜んでいないのは、創作者などの委縮による市場の縮小化を懸念する団体・企業です。具体的には、創作者の団体や、アニメーション・漫画関連の企業です。これは、アニメーション・漫画産業において、いわゆる「コミケ」が大変重要な役割を果たしていることも関係しています。「コミケ」では、同人誌を含めた「2次創作物」が創作・取り扱われています。この「2次創作物」の存在が、原作の市場を支えているという面があります。「2次創作物」とは、例えば、原作のキャラクターなどを利用して2次的に創作された独自のストーリーで展開されるアニメーション・漫画です。異なる原作から複数のキャラクターを参加させたり、独自のキャラクターを追加させたりと、さまざまな2次創作が生み出されています。これらはファン活動の一環であると共に、原作の宣伝にもなっています。
ここで、政府の重要な戦略の一つにクールジャパン戦略や、観光産業の拡大戦略がありますが、これらの戦略にとってアニメーションや漫画は大変重要になっています。TPPによるメリットを享受するためにも、アニメーションや漫画の産業・市場は大変重要になっています。
このような状況の中、今回著作権の「非親告罪化」については各産業からの要望、TPP交渉結果の反映、政府の成長戦略等の達成という視点でさまざまな調整がなされた結果、「非親告罪化」を進めると共に、「2次創作物」を「非親告罪」の対象外とする方向で進むことになります。著作権を保護する姿勢を打ち出すと共に、創作者の団体やアニメーション・漫画産業に対する配慮と期待とを示した形です。
各種コンテンツは日本の大きな強みであり、今後はその役割が更に大きくなると思われます。今回のこの法改正が、著作権の好適な保護、アニメーション産業を含むコンテンツ産業の発展、およびクールジャパン戦略や観光産業の拡大戦略の推進に大きく寄与することを期待しております。