食品分野と競合する領域における知財戦略に関する考察

 食品分野は、最も基本的で伝統的な産業分野の一つであり、多くの分野と互いに重複している。そのため、食品企業と他分野の企業とが競合する競合領域が複数存在する。この競合領域においては、知財戦略が全く異なる企業同士が競合することになる。このような「食品分野」をとりまく「競合状況」について調査・整理することは、食品分野の企業および他分野の競合企業の双方にとって有益であると考える。また、食品分野および競合する各分野における知財戦略の特徴を抽出・比較することは、競合領域において食品分野の企業および他分野の競合企業の双方にとって知財戦略立案等の参考になると考える。本調査研究においては、「食品分野」をとりまく「競合状況」について調査・分析を行うと共に、競合する各分野における知財環境や知財戦略について調査・分析を行った。

 Study on IP strategy in the fields competing with the food industry field

                                  乾 利之(Toshiyuki Inui)

櫻田 賢(Masaru Sakurada)

 

★月刊パテント2018年3月号に掲載された内容に基づく内容です。そちらもあわせてご覧いただければ幸甚です。

食品知財、食品知財戦略、食品特許、食品特許戦略、食品商標、食品分野と競合、競合領域の知財、競合領域の特許、競合領域の商標

目次

1.はじめに

2.調査研究の手順概要

3.食品企業の選定および競合領域の調査

(1)食品企業の選定

(2)競合領域Aおよび競合企業A

(3)競合領域Bおよび競合企業B

4.競合状況の整理

(1)競合状況の概要

(2)各競合領域における状況

5.知財環境および知財戦略の比較

(1)知財環境の比較

(2)特許戦略の比較

(3)商標戦略の比較

6.競合領域における知財戦略

(1)競合領域Aにおける基本的な対応事項

(2)競合領域Bにおける基本的な対応事項

7.おわりに

 

1.はじめに

 

 食品分野は、最も基本的で伝統的な産業分野の一つである。食品分野は、人の生活・健康・生命に深く関わる分野であり、従前より、多くの分野と関連性を有する分野である。

 例えば、食品分野の企業が新しい技術やブランド力を利用して他分野に進出すると共に、他分野の企業も新しい視点で食品分野へ参入してきている。

 このように、食品分野は多くの分野と互いに重複しており、食品企業と他分野の企業とが競合する競合領域が複数存在する。競合領域においては、分野が異なる企業同士が互いに競合することになる。知財戦略は各分野で相違するため、競合領域においては、知財戦略が異なる企業同士が競合することになる。

 また詳細には、競合領域には、食品企業が他分野に進出することで生じた競合領域Aと、他分野の企業が食品分野に進出することで生じた競合領域Bとがある。ここで、競合領域Aと競合領域Bとでは、競合する企業・分野が同一ではない。更には、競合領域Aは他分野が中心の競合領域であり、競合領域Bは食品分野が中心の競合領域である。そのため、競合領域Aと競合領域Bとでは、競争環境や知財戦略が異なると考えられる。

 このような競合状況について整理することは、食品企業および他分野の競合企業の双方にとって外部環境の分析の一つとして有益であると考える。また、食品分野および競合する各分野における知財戦略の特徴を抽出・比較することは、競合領域における知財戦略立案の参考になると考える。特に、食品企業においては、知財面において先進的な活動を行っている分野の企業と競合していることを再認識すると共に、食品企業ならではの強みと弱みとを把握し、知財戦略を立案・推進する契機になると期待している。

 以下、本調査研究の内容および調査・分析結果等について説明する。

 

2.調査研究の手順概要

 

 本調査研究の手順概要を図1に示す。本調査研究の手順は、大きく「競合状況の整理」に関する手順と、「知財戦略」の調査・分析に関する手順とにより構成される。

 まず、特許調査等により「食品分野」に関する競合状況を抽出・整理した。詳細には、「食品分野」における各分野の代表的な企業を「食品企業」として抽出・選定した。続けて、「食品分野」の企業が他分野に進出することで生じる「競合領域A」を特定すると共に、「競合領域A」の企業である「競合企業A」を選定した。また、逆に「非食品分野」の企業が「食品分野」に進出することで生じる「競合領域B」を特定すると共に、「競合領域B」の企業である「競合企業B」を選定した。そして、これらの調査結果に基づいて、「食品分野」に関する競合状況を整理した。

 続けて、「食品分野」および「競合分野(競合領域Aまたは競合領域Bとして特定された分野)」における「知財戦略」について各種調査し、特徴・ポイント等を抽出・整理した。詳細には、まず、各分野の知財部門の規模、知財活動のタイプ等の「知財環境」の調査を行った。続けて、知財戦略に関する調査として「特許戦略」の調査を行った。各分野ごとに「特許戦略」における重要なポイントを抽出・比較した。また、知財戦略に関する調査として「商標戦略」の調査を行った。食品区分における登録商標数等を調査し、食品事業への注力度合いや食品事業の伝統の度合い等を調査した。そして、「知財戦略」に関する調査結果により、各競合領域において知財戦略立案時に検討すべき視点等を説明した。

 以下、このような手順で実施された本調査研究の内容・調査結果等について説明する。

 

<図 1> 本調査研究の手順概要

3.食品企業の選定および競合領域の調査

 

 以下の手順で食品企業の選定および競合領域の調査を行った。

 まず、食品分野を事業の中心とする企業である食品企業を選定した(33社)。

 次いで、食品企業における特許調査の結果を分析し、食品企業による特許出願件数が多い「非食品分野」を「競合領域A」として把握した。そして、各競合領域Aにおいて特許出願件数が多い企業をリストアップし、該リストアップした企業を各競合領域Aにおいて食品企業と競合する「競合企業A」とした。ここで、各競合領域Aごとにリストアップした競合企業Aの数は、食品企業による「当該分野(競合領域A)への特許出願件数」に応じて設定すると共に、後述する「競合領域B」における競合企業Bも含めた合計の競合企業数が食品企業数と同程度になるように調整した。

 続けて、食品分野における出願数が多い非食品企業をリストアップし、該リストアップした企業を食品企業と競合する「競合企業B」とした。そして、リストアップした競合企業における分野を「競合領域B」とした。ここで、各競合領域Bごとに競合企業Bとしてリストアップした企業の数は、上述の通り「競合領域A」における企業も含めた合計の企業数が食品企業数と同程度になるように調整した。

 以下、食品企業の選定および競合領域の調査について詳述する。

 

(1)食品企業の選定

 

 食品企業は、「証券コード協議会」の定める業種区分「食料品」に区分される東証一部上場企業から選択した。具体的には、会社四季報オンラインにおいて「食料品」に区分される企業(企業81社)から東洋経済業種(細分類)ごとに選択した [1]。細分類は製造業に関するものを選択し、各細分類ごとに時価総額上位の企業(約半数)を選択した。

 食品企業として選択した企業(33社)を表1に示す。

 

<表 1>食品企業一覧

 

(2)競合領域Aおよび競合企業A

 

①競合領域Aの調査

 特許調査により、食品企業が進出したことにより生じた競合領域である「競合領域A」を把握することを試みた。具体的には、以下の手順で調査および競合領域Aの把握を行った。

Ø  食品企業の特許調査(公開公報)

・期間:2014~2016年(20140101-20161231)の3年分

     ・使用DB:JP-NET

     ・出願人:表1に記載の食品企業

Ø  特許調査の結果を分析

・筆頭(第1)IPCの分布を分析・整理し、複数の分野(競合領域候補)に分類した。

・各分野(競合領域候補)ごとに特許出願件数を集計した。

・食品企業による特許出願が多い「非食品分野」(10件以上の分野)を抽出

 ⇒「競合領域A」とした。

Ø  各競合領域Aごとに、特許出願件数に応じて食品分野との「競合度合い」を評価した。

 

 上述の分析結果より、食品企業が進出することで生じた競合領域Aとして、「農林漁業分野(競合度合い:小)」、「医学・衛生分野(競合度合い:大)」、「運搬・包装・貯蔵分野(競合度合い:中)」、「化学分野(競合度合い:中)」、「電子機器・ソフト分野(競合度合い:中)」が抽出・特定された(表2参照)。

 

②競合企業Aの選定

 続けて、各競合領域Aごとに競合企業Aを選定した。具体的には、複数の競合領域A全体の企業数の目安を20社とし、特許出願件数に応じて各競合領域Aごとに選定する企業数を設定した。各競合領域Aにおいて選定する企業数として、「農林漁業分野」1社、「医学・衛生分野」6社、「運搬・包装・貯蔵分野」4社、「化学分野」4社、「電子機器・ソフト分野」4社とした。

 そして、下記条件で特許調査を行い、各競合領域Aごとに特許出願の多い「非食品企業」を抽出し、「競合企業A」とした。

Ø  各競合領域Aの特許調査(公開公報)

・期間:2014~2016年(20140101-20161231)の3年分

     ・筆頭(第1)IPC:各分野(競合領域A)のIPC(表2参照)

     ・使用DB:JP-NET

Ø  各競合領域Aごとに特許出願件数の多い企業を抽出した(競合企業A候補)。

Ø  各競合領域Aごとに割り当てられた企業数に基づいて、特許出願数が多い順に「競合企業A」を選定とした(表2参照)。

・なお、競合企業Aの選定は「競合度合い」が大きい領域から優先して行った。通常の分類では他の分野に分類される企業もあるが(特に「医学・衛生」分野)、表2に示すように分類した。ただし、後述する知財戦略の調査・比較においては、企業の実体を踏まえて通常の分類における情報等を適宜抽出した。

 

各競合領域Aにおいて選定された競合企業Aは、表2に示す通りである。競合企業Aは、各競合領域Aで食品企業と競合する可能性が高い企業である。実際に競合するかは別として、後述する知財戦略比較における各競合領域Aの代表として取り扱う。

 

    <表 2> IPC分析による競合領域Aおよび競合企業Aの調査結果

(3)競合領域Bおよび競合企業B

 

①競合企業Bの調査

 特許調査により、「食品分野」に進出している「競合企業B」を調査した。具体的には、以下の手順で「食品分野」における特許調査を行い、「食品分野」おける特許出願件数の多い「非食品企業」を抽出し、「競合企業B」とした。

Ø  特許調査(公開公報)

・期間:2014~2016年(20140101-20161231)の3年分

・筆頭(第1)IPC:A21*+A22C*+A23*+C11*+C12*+C13*

     ・使用DB:JP-NET

Ø  特許調査の結果を分析

・「食品分野」への特許出願が多い「非食品企業」を抽出(上位20社)

⇒「競合企業B」とした。

 

「食品分野」に進出している「非食品企業」である競合企業Bは、表3に示す通りである。競合企業Bは、各競合領域Bで食品企業と現実的に競合している企業であると考えられる。後述する知財戦略比較における各競合領域Bの代表として取り扱う。

 

②競合領域Bの調査

 続けて、上述で抽出した競合企業Bに基づいて、「非食品企業」が「食品分野」に進出したことにより生じた競合領域である「競合領域B」を把握することを試みた。具体的には、競合企業B(20社)を分野ごとに分類することで、競合領域Bを把握した。

また、各競合領域Bにおいて抽出された競合企業Bの数に応じて競合度合いを評価した。

 競合領域Bは、表3に示す通りであり、「医学・衛生分野(競合度合い:大)」、「運搬・包装・貯蔵分野(競合度合い:小)」、「化学分野(競合度合い:大)」、「機能素材分野(競合度合い:中)」、「電気分野(競合度合い:小)」、「輸送機(競合度合い:小)」が抽出された。

 「競合領域B」は、「競合企業B(非食品企業)」における中心の事業分野である。ここで、「実際」の競合領域は「食品分野」であるが、「競合領域A」との対比上、「競合領域B」としている。

 

 

        <表 3>競合領域Bおよび競合企業Bの調査結果

4.競合状況の整理

 

 上述の調査結果を更に整理した結果を表4、表5および図2に示す。以下、競合状況の概要および各競合領域における状況を簡単に説明する。

 

(1)競合状況の概要

 

 上述の調査結果より、食品企業が複数の領域において非食品企業と競合関係にある(競合可能性がある)ことがわかった。また、各競合領域において、食品企業は、一般的には食品企業の競合相手として予想されていない企業と競合関係にある(競合可能性がある)ことがわかった。

 これらの「競合状況」については、「食品企業」および「非食品企業」の双方にとって認識が不足している可能性があり、この結果が「食品企業」および「非食品企業」の双方にとって自社の競合状況を再認識・調査する契機になることを期待する。

 

 

 また、上述の通り、「食品企業」と「非食品企業」とによる競合には、「競合領域A」での競合と、「競合領域B」での競合とがある。そして、上述の調査結果を更に整理すると、「食品企業」と「非食品企業」とによる競合には、「競合領域AおよびBの双方」での競合と、「競合領域Aのみ」での競合と、「競合領域Bのみ」での競合とがあることがわかった(図2参照)。各競合領域における知財戦略の比較や適した知財戦略の検討を行う際には、これらの競合状況を考慮する必要がある。

<図 2> 競合状況の整理

(2)各競合領域における状況

 

 上述の調査により、競合領域として、 「医学・衛生(A・B双方向)」、「化学(A・B双方)」、「運搬・包装・貯蔵(A・B双方)」、「電子機器・ソフト(A)」、「農林漁業(A)」、「機能素材(B)」、「電気(B)」、「輸送機(B)」が特定された。以下、各競合領域における状況を簡単に説明する(表4および表5参照)。

 

①医学・衛生分野(A・B双方向)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域A(競合度合い:大)+競合領域B(競合度合い:大)。

Ø  競合領域A・Bでの重複企業の有無:有り(5社)。競合領域A(6社)および競合領域B(6社)のうち5社が重複する。

Ø  競合状況

・双方向で競合関係にある

・上述の通り、競合領域A(6社)および競合領域B(6社)のうち5社が重複しており、食品企業は双方向で共通の企業と競合関係にある

・食品企業は、食品分野および医学・衛生分野の両方への出願件数の多い企業と競合している。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域A:キヤノン、富士フィルム(重複)、オリンパス(重複)、花王(重複)、セイコーエプソン(重複)、テルモ(重複)

・競合領域B:富士フィルム(重複)、オリンパス(重複)、花王(重複)、セイコーエプソン(重複)、テルモ(重複)、シスメックス

    ・競合企業としては、一般的に食品企業の競合企業とは考えられていない企業が多く抽出された。

    ・医学・衛生分野の企業は、バイオ系で遺伝子関連の方法・装置等に関する特許出願を中心に、その他バイオ関連技術や食品関連の特許出願を幅広く行っている。

    

②化学分野(A・B双方)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域A(競合度合い:中)+競合領域B(競合度合い:大)。

Ø  競合領域A・Bでの重複企業の有無:無し

Ø  競合状況

・双方向で競合関係にある

・競合領域A(4社)および競合領域B(6社)の重複は無く、食品企業は、多くの化学企業と競合している。

・競合領域Bでの競合企業が多いこと、更には競合領域Bの競合企業が食品分野での事業が活発であることから、食品企業は、食品分野での競合に留意する必要がある。       

Ø  競合企業(略称)

・競合領域A:DIC株式会社、住友ゴム工業、東レ、旭化成

・競合領域B:ライオン、カネカ、東洋紡、東ソー、王子ホールディングス、東洋新薬

    ・競合企業としては、一般的に食品企業の競合企業と考えらえている企業が多く含まれている。技術的に近いことや、需要者が共通している等、食品企業とは競合関係になりやすい。

    ・化学分野の企業は、バイオ系の菌や酵素等、食品素材や食品に関連する日用品に関する特許出願を幅広く行っている。

 

③運搬・包装・貯蔵分野(A・B双方)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域A(競合度合い:中)+競合領域B(競合度合い:小)。

Ø  競合領域A・Bでの重複企業の有無:有り(1社)。競合領域A(4社)および競合領域B(1社)のうち1社が重複する。

Ø  競合状況

・双方向で競合関係にある

・上述の通り、競合領域A(4社)および競合領域B(1社)のうち1社が重複  しており、食品企業は双方向で特定企業と競合関係にある。

・競合領域Aでの競合企業が多いことから、食品企業は、運搬・包装・貯蔵分野での競合に留意する必要がある。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域A:凸版印刷、大日本印刷(重複)、株式会社吉野工業、株式会社ダイフク

・競合領域B:大日本印刷(重複)

     ・事業面からみると、競合というよりは協力関係または補完関係にあるといえる。そのため、食品企業は、自社実施確保のための権利化等の活動をしており、運搬・包装・貯蔵分野の企業との競合だけでなく、食品企業と競合している側面もあると考えられる。

     ・運搬・包装・貯蔵分野の企業は、バイオ系の細胞培養や微生物に関する特許出願を行っている。

 

 

              <表 4>競合状況の整理~その1~

④電子機器・ソフト分野(A)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域A(競合度合い:中)

Ø  競合状況

・食品企業が電子器機・ソフト分野に特許出願している。

・食品企業においても、製造システムや評価システム等、電子機器・ソフト分野の技術を開発・実施しているため、このような競合状況が生じると考えられる。

・IoT化の進行等により、競合度合いが更に大きくなる可能性がある。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域A:デンソー、島津製作所、パナソニックIPマネジメント、富士通

・食品企業にとっては、競合企業であると考えられていない企業と、電子機器・ソフトの技術分野で競合することになるため留意すべきである。

 

⑤農林漁業分野(A)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域A(競合度合い:小)

Ø  競合状況

・食品企業が農林漁業分野に特許出願している。

・食品企業においても、原料に関連する技術開発が行われているため、このような競合状況が生じると考えられる。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域A:井関農機株式会社

 

⑥機能素材分野(B)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域B(競合度合い:中)

Ø  競合状況

・機能素材企業が食品分野に特許出願している。

・食品分野において、食品企業と多くの機能素材企業とが競合する。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域B:長谷川香料、小川香料、太陽化学、三栄源エフ・エフ・アイ

     ・機能素材分野の企業は、食品加工に使用される機能素材に関する特許出願をしている。食品の機能や風味等に注目している点で食品企業と感覚が近い特許出願が多い。

 

⑦電気分野(B)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域B(競合度合い:小)

Ø  競合状況

・電気企業が食品分野に特許出願している。

・食品分野において、食品企業と電気企業とが競合する。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域B:日立製作所、日立ハイテクノロジーズ

・競合企業としては、一般的に食品企業の競合企業と考えられていない企業が抽出された。

・電気分野の企業は、バイオ系の培養方法・装置や分析方法・装置に関する特許出願をしている。

 

⑧輸送機(B)

Ø  競合領域および競合度合:競合領域B(競合度合い:小)

Ø  競合状況

・輸送企業が食品分野に特許出願している。

・食品分野において、食品企業と電気企業とが競合する。

Ø  競合企業(略称)

・競合領域B:本田技研工業

・競合企業としては、一般的に食品企業の競合企業と考えられていない企業が抽出された。

・輸送機分野の企業は、バイオ系の遺伝子に関連する特許出願をしている。

 

 

             <表 5>競合状況の整理~その2~

5.知財環境および知財戦略の比較

 

 「知財環境」および「知財戦略」について、「食品分野」と、競合領域として抽出された「競合分野」とを比較することを試みた。以下、データベース等による調査と文献調査とを適宜組み合わせて調査した。なお、各文献ごとに分野の区分が異なるため、本調査においては、各分野ごとにリストアップされた競合企業の実体を考慮しながら適当と思われる情報を抽出した。

 

(1)知財環境の比較

 

 知財環境として、「知財部門の規模」「知財活動のタイプ」「ライセンス料」について調査した。「知財部門の規模」は知財活動の規模・範囲に関する指標として、「知財活動のタイプ」は知財活動のスタンスや方向性の指標として、「ライセンス料」は係争や権利活用の環境の相違の一つの指標として調査した。

 

①知財部門の規模

 下記資料および文献により、各分野における知財担当者の人数(概要)を調査した。

Ø  平成28年度知的財産活動調査結果(統計表)[2]

・各分野の企業における特許出願件数を調査(上述のデータベースを利用)

 ⇒その結果をふまえ「区分5(特許出願100件以上)」の企業における知財担当者数の情報を取得

・各分野ごとに知財担当者の平均人数を算出した(平均人数①)。

Ø  知財管理「わが社の知財活動」[3]

・各分野の企業のうち掲載された企業(「食品」分野:7社、「医学・衛生分野:5社、「化学」分野:6社、「運搬・包装・貯蔵」分野:3社、「電子機器・ソフト」分野:3社、「農林漁業」分野:1社、「機能素材」分野1社、「電気」分野1社、「輸送機」分野:1社」)から知財部門の人数情報を抽出した。

⇒各分野ごとに知財担当者の平均人数を算出した(平均人数②)。

Ø  平均人数①、②の平均を各分野における「知財部門の規模」とした(表6参照)。

 

 結果は、「食品分野:20.1」「医学・衛生分野:91.1」「化学分野:42.1」「運搬・包装・貯蔵分野:25.0」「電子機器・ソフト分野:104.8」「農林漁業:25.5」「機能素材分野:10.0」「電気分野:78.3」「輸送機分野:128.0」であった。

 「食品分野」の企業は、ほぼ自社よりも知財規模が大きな企業と競合する。詳細には、食品企業は、「食品分野」を基準として、小規模:「機能素材分野」、同程度:「運搬・包装・貯蔵分野」「農林漁業」、大規模:「医学・衛生分野」「化学分野」「電子機器・ソフト分野」「電気分野」「輸送機分野」の企業と競合する。つまり、「食品分野」の企業は、特許出願数の勝負や係争・訴訟等に巻き込まれると知財活動において不利になる場合がある点に留意する必要がある。逆に「競合分野」の企業は、知財部門の規模の大きさを利用した競争に持ち込むことも一手法であるといえる。

 

②知財活動のタイプ

下記文献および報告書により、各分野における知財活動のタイプを調査した。

Ø  知財管理「わが社の知財活動」

・各分野の企業のうち掲載された企業(同上)

⇒各社における知財活動ついての記載を確認し、「出願・権利化」「三位一体・コンサル・戦略」「係争」「ライセンス」についての記載を各企業ごとに抽出した。さらに各分野ごとに集計し、「出願・権利化」「三位一体・コンサル・戦略」「係争」「ライセンス」それぞれの項目について、知財活動として記載されている企業の割合(%)を算出した(評価値①)。

Ø  企業等の知的財産戦略の推進に関する調査研究報告書 [4]

・「出願・権利化」「戦略」「係争」「ライセンス」に関連する集計結果を参照し、食品分野および各分野における知財活動のタイプに関する情報を抽出した。なお、分野の区分が異なるため、上述の競合企業の実体を考慮しながら適当と思われる区分の情報を抽出した。

「出願・権利化」「戦略」「係争(「三位一体・コンサル・戦略」と統合)」「ライセンス」ごとに複数の評価項目が設定されており、この複数項目の評価(実施率(%))の平均値を算出した(評価値②)。

Ø  評価値①および評価値②の平均値を更に算出し、「出願・権利化」「三位一体・コンサル・戦略」「係争」「ライセンス」それぞれの評価値とした(表6参照)。

 

 結果は、「出願・権利化」については、いずれの分野も高い数値であり、知財活動における最重要項目としていることが確認できた。

 「三位一体・コンサル・戦略」については、「運搬・包装・貯蔵」「電子機器・ソフト」分野が高い数値であり、「食品」分野は、平均程度の数値であった。

 「係争」については、「電気」「電子機器・ソフト」「医学・衛生」分野が高い数値であり、「食品」分野は最も低い数値であった。

 「ライセンス」については、「輸送機」「医学・衛生」分野の数値が高く、「食品」分野は、これらに次いで高い数値であった。

 上述より、「食品分野」の企業は、「係争」については、自分たちよりも経験の豊富な企業と競合することになり、不利になる活動であることがわかった。また、「三位一体・コンサル・戦略」の数値が高い分野は、知財戦略の立案・実施に長けている分野であると考えられるので、競合に際しては留意する必要がある。また「ライセンス」に関しては、分野ごとに方針が異なるため、商品設計段階で関係者に周知しておくことが好ましい。

 ここで「出願・権利化」については、いずれの分野の企業も注力しており、後述の特許戦略の調査・分析において、「出願・権利化」について深く調査した。

 

③ライセンス料

下記文献および報告書により、各分野におけるライセンス料率について調査した。結果は、表6に示す

Ø  実施料率(第5版)[5]

・各分野における実施料率(平均値、イニシャル無し)を調査した(料率①)。

Ø  知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~ [6]

・各分野における実施料率(平均値、アンケート結果)を調査した(料率②)。

Ø  料率①と料率②との平均値を算出し、各分野ごとのライセンス料率とした(表6参照)。

 

 結果は、ライセンス料率は、「医学・衛生」「化学」「機能素材」分野で高く、「食品」分野は中程度であった。ただし、「食品分野」と競合領域A・Bの双方向で競合する「医学・衛生」「化学」分野のライセンス料率が高いことは、食品企業にとっては留意すべき点である。

 

 

               <表 6> 知財環境まとめ

 

(2)特許戦略の比較

 

 各分野ごとの「知財戦略」の比較として、まず「特許戦略」について比較した。特許戦略の比較として、「特許戦略の視点・特徴」についての抽出・比較と、「出願・権利化におけるポイント」の抽出・比較とを行った。

 

①特許戦略の視点・特徴の抽出・比較

以下の調査報告等により、特許戦略の視点や特徴等について調査・比較した。

Ø  平成26年度 特許庁 知的財産国際権利化戦略推進事業 報告書 [7]

・「食品」「化学」分野について調査した。

Ø  平成28年度 特許庁 知的財産国際権利化戦略推進事業 調査研究報告書 [8]

・「医学・衛生」分野について調査した。

Ø  平成27年度 特許庁 知的財産国際権利化戦略推進事業 調査研究報告書 [9]

・「電子機器・ソフト」分野について調査した。

Ø  平成25年度 特許庁 知的財産国際権利化戦略推進事業 報告書 [10]

・「輸送機」「電子機器・ソフト」「電気」「医学・衛生」分野について調査した。

Ø  平成27年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 香料関連技術 [11]

・「機能素材」分野について調査した。

Ø  平成26年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 農業関連技術 [12]

・「農林漁業」分野について調査した。

Ø  特許から見た容器包装分野の環境技術の現状と今後の課題 [13]

・「運搬・包装・貯蔵」分野について調査した。

 

結果は、以下の通りである(表7参照)。

u  「食品」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・成熟技術、安心・おいしさ・安全、ノウハウ秘匿

「発明の対象・ポイント」

・食品、原料の配合、原料の組み合わせ、食感や風味の改善、製造方法

u  「医学・衛生」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・外部連携(必須:医療関係者)、遺伝子解析、グローバル、薬事法の規制、(クロスライセンス、IT/IoT:電子機器・ソフト等から事業転換のため)

「発明の対象・ポイント」

・遺伝子情報、化合物、医療機器、医療システム、医薬品

u  「化学」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・継続的な研究開発、高い技術力、外部連携、ノウハウ秘匿

「発明の対象・ポイント」

・化合物、化合物の配合、化合物の組み合わせ、機能、製造方法

u  「運搬・包装・貯蔵」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・多分野での利用、環境技術

「発明の対象・ポイント」

・容器・包装、構造、材料

u  「電子機器・ソフト」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・クロスライセンス、標準・必須特許、事業転換(⇒医業、インフラ等)、グローバル、IT/IoT、ビジネスモデル

「発明の対象・ポイント」

・システム、サーバ、端末装置

u  「農林漁業」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・スマート農業、植物工場、植物遺伝子解析

「発明の対象・ポイント」

・遺伝子情報、装置、形状・構造・配置、システム

u  「機能素材」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・機能性食品、複数分野での使用、海外市場、ノウハウ秘匿

「発明の対象・ポイント」

・化合物、化合物の配合、化合物の組み合わせ、機能、製造方法

u  「電気」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・クロスライセンス、事業転換(⇒医業、インフラ等)、グローバル、IT/IoT

「発明の対象・ポイント」

・システム、サーバ、端末装置、部品

u  「輸送機」分野

「特許戦略の視点・特徴」

・外部環境変化、次世代技術、グローバル、差別化、標準・必須特許

「発明の対象・ポイント」

・形状・構造・配置、制御、システム、IT/IoT

 

上述の通り、「特許戦略の視点・特徴」「発明の対象・ポイント」は、各分野ごとに相違する。特に「食品分野」と「他の分野」とでは、「特許戦略の視点・特徴」「発明の対象・ポイント」は相当に相違する。「食品分野」は、例えば、「電子機器・ソフト分野」「電気分野」「輸送機分野」等とは、特許戦略は大きく異なり、発明の対象も全く異なる。また、「食品」分野は、「化学」分野や「医学」分野の一部とは技術的に近いものの、特許戦略は大きく異なり、発明の対象も異なる。これらの相違は、知財活動の相違となり、係争や権利活用のスタンスの相違となり、出願・権利化における視点やクレーム・明細書におけるポイントの相違となる。

「食品」分野においては、例えば、「天然原料が配合」された食品の発明について「風味の改善」を目指した開発が行われ、「特定の配合比率」により規定された発明について特許出願がなされる。例えば、「マーカッシュ方式」で天然原料が規定され、「パラメータ・数値限定」で特定配合比率が規定され、また、明細書においては「複数の実施例」において「風味改善」の効果を証明する「官能評価」の結果が記載される。ここで、開発において見出された「特定の配合比率」について、「ノウハウとして秘匿」した方が事業として有益である場合、特許出願をせずに秘匿するという選択がなされる。

他の分野については詳述しないが、例えば、発明の対象が「構造」である場合、「構成物の相対的な位置関係」が重要であり、この「位置関係」により発明が規定される。また、「食品」分野等とは異なり、実施例を多数列挙することも重視されない。

また、発明の対象が「システム・サーバ・端末装置」である場合、「データ処理(取得・加工・利用)」が重要な視点であり、データ処理の内容により発明が規定される。「食品」分野とは、様々な点で相違することは明白である。

また、例えば、特許戦略の視点・特徴として「クロスライセンス」があげられている場合、「ライセンス交渉活動」と共に、出願・権利化において自社実施よりも「他社実施を想定したクレーム」の作成が重視される。

また、特許戦略の視点・特徴として「標準・必須特許」があげられている場合、「標準規格に対応したクレーム」の作成が重視され、多くの「必須特許の取得」が重視される。また、「標準化活動」が重視され、知財活動および技術開発は、「標準化活動と密接に連携」して進められる。

また、特許戦略の視点・特徴として「グローバル」があげられている場合、外国における出願や係争を考慮した出願・権利化が重要であり、「外国における係争時に不利にならないクレーム・明細書の記載」や、「翻訳しやすい記載」等が重視される。

 上述のように、各分野ごとに「特許戦略の視点・特徴」「発明の対象・ポイント」は相違する。そして、競合領域においては、互いに「特許戦略の視点・特徴」「発明の対象・ポイント」が異なる企業同士が競合することになる。競合する企業の双方にとって、「特許戦略の視点・特徴」「発明の対象・ポイント」における相違点は、特許戦略立案時において互いに留意すべきポイントである。

 

②出願・権利化におけるポイントの抽出・比較

以下の文献等により、分野ごとに「特許出願・権利化におけるポイント」を抽出・整理した。

Ø  拒絶理由通知への対応~基礎・対応事例・国内内外比較~[14]

・「発明・クレーム」「明細書」におけるポイントを抽出・整理した。また、該ポイントの抽出においては、本文献の記載内容とともに一般的な知見も含めて抽出した。

・上記ポイントについて、各分野ごとに、有無・要否等を評価した。

 

結果は、表7に示す通りである。以下、「「発明・クレーム」のポイントおよび評価の概要」、「「明細書」におけるポイントおよび評価の概要」について説明する(詳細は表7参照)。

 

Ø  「発明・クレーム」のポイントおよび評価の概要

u  「発明・クレームのポイント」として抽出された項目は以下の通りである。

・「パラメータ・数値限定」「マーカッシュ」「用途発明」「用量・用法発明」「製造方法」「システム」「サーバ」「プログラム」「データ処理」「位置関係(2次元、3次元)」「ノウハウ等秘匿」「構成の明確化:難易度」「単数/複数」「関連法による規制」「産業上利用可能性違反(人の治療)」

u  「食品」分野の評価を中心に、ポイントの評価の概要を説明する。

・「食品」分野においては、「パラメータ・数値限定」「マーカッシュ」「用途発明」「製造方法」「ノウハウ等秘匿」等が特徴である。これらのポイントは、化学系や医学系の分野においては重要なポイントとして認識されているが、機械や電気・電子機器・ソフト系の分野においては馴染みの薄いものが多い。これらのポイントは、「食品」分野に参入する「非化学・医学系」分野の企業とっては留意すべき実務のポイントである。

・逆に、「食品」分野において、「システム」「サーバ」「プログラム」「データ処理」「位置関係(2次元、3次元)」等のポイントは、知識として理解はしているが、特許実務で接することは非常に少ないポイントである。しかし、これらのポイントは、機械や電気・電子機器・ソフト系の分野においては必須のポイントである。特許出願数からみれば、食品分野は、これらのポイントに対応していない数少ない分野の一つといえる。これらのポイントは、「食品」分野の企業が機械や電気・電子機器・ソフト系の分野に参入した場合、留意すべき実務のポイントである。また、「構成の明確化」「単数/複数」についても、「食品」「化学」系の分野では意識することが少ないが、他の分野では、外国出願時の翻訳や係争時の文言解釈等、影響が大きいポイントであり、実務上、非常に重要なポイントである。

・その他、「食品」分野において、「用量・用法発明」「関連法による規制」「産業上利用可能性違反(人の治療)」等については、あまり関係のないポイントであるが、「医学・衛生」分野においては特有かつ重要なポイントである。「医学・衛生」分野も特殊な分野の一つであり、当該分野に参入する「食品」分野の企業にとっては、これらは留意すべきポイントである。

     

Ø  「明細書」におけるポイントおよび評価の概要

u  「明細書のポイント」として抽出された項目は以下の通りである。

・「作用効果が重要」「臨界的意義」「パラメータ等:多段階限定」「物質列挙」「実施例の重要性」「官能評価(味、風味等)」「図面」

u  「食品」分野の評価を中心に、ポイントの評価の概要を説明する。

・「食品」分野においては、「作用効果が重要」「臨界的意義」「パラメータ等:多段階限定」「物質列挙」「実施例の重要性」「官能評価(味、風味等)」等が特徴である。これらのポイントは、化学系や医学系の分野においては重要なポイントとして認識されているが、機械や電気・電子機器・ソフト系の分野においては馴染みの薄いものである。これらのポイントは、「食品」分野に参入する「非化学・医学系」分野の企業とっては留意すべき実務のポイントである。

・これらのポイントは、例えば、以下のような役割があり、競合領域における食品企業の「強み」にもなる。

・「作用効果」「臨界的意義」:構成要件が近似する場合の進歩性等の根拠

・「パラメータ等:多段的限定」:補正の根拠

・「物質列挙」:権利範囲の明確化、補正時の根拠、後願排除、

・「実施例の重要性」:発明の裏付け、補正の根拠、分割出願

・「官能評価(味、風味等)」:食品特有の進歩性等の根拠

・特に「官能評価(味、風味)」は、「食品」における特許戦略の視点・特徴の重要なポイントである「安心・おいしさ・安全(表7参照)」につながるものであり、重要なポイントである。

・逆に「食品」分野において、「図面」は特許実務で接することは非常に少ないものである。しかし、「図面」は、機械や電気・電子機器・ソフト系の分野においては必須の要素である。「図面」は、「食品」分野の企業が機械や電気・電子機器・ソフト系の分野に参入した場合、異なる発明対象への対応と共に、新たに対応すべき実務のポイントである。

 

 

 上述のように、各分野ごとに「出願・権利化におけるポイント」が相違する。具体的には、各分野ごとに「発明・クレームのポイント」「明細書におけるポイント」が相違する。そして、競合領域においては、互いに「発明・クレームのポイント」「明細書におけるポイント」が異なる企業同士が競合することになる。競合する企業の双方にとって、「発明・クレームのポイント」「明細書におけるポイント」における相違点は、互いに留意すべきポイントである。


                <表 7> 特許戦略の比較

 

(3)商標戦略の比較

 

 続けて、各分野ごとの「知財戦略」の比較として、「商標戦略」について比較した。商標戦略の比較として、「食品区分における登録商標数の比較」「最も古い登録日の比較」を行った。

 

①食品区分における登録商標数の比較

 商標調査により、各分野の企業における食品区分(第29類~第33類)の登録商標数を比較した。具体的には、以下の手順で調査・分析を行った。

Ø  登録商標調査

 ・使用DB:J-PlatPat

 ・検索項目:「区分」×「出願人/書換申請人/権利者/名義人」

 ・各企業ごと、かつ、各商標区分ごとに登録商標数を調査した。

 ・ここで、検索項目「区分」を利用した調査においては、「検索で指定した区分」の指定商品・役務を含む登録商標だけでなく、類似する指定商品・役務を含む登録商標もヒットするため、調査結果は正確な登録件数ではない。しかし、以下の傾向を把握するために有効な情報であり下記分析に利用した。

Ø  商標調査の結果を分析

 ・各分野ごとに、食品に対応する区分(第29類~第33類)の平均登録商標数(件数/社)を算出した。

・各分野ごとに、「全区分」の登録商標数に対する、「食品に対応する区分(第29類~第33類)」の登録商標数の割合(%)を算出した(表8参照)。登録商標における「食品区分への集中度合い」を把握し、各分野ごとの食品区分への注力度合い(内部の配分)を把握することを試みた。

・各分野ごとに、「食品」分野における食品に対応する区分(第29類~第33類)の登録商標数に対する、「他の分野」における食品に対応する区分(第29類~第33類)の登録商標数の比を算出した(表8参照)。「食品分野における食品区分の登録商標数」を基準とした「他の分野における食品区分の登録商標数」の比率を算出し、各分野ごとの食品区分への実際の注力度合い(商品数、事業規模)を把握することを試みた。

 

 結果は、表8に示す通りであり、「食品分野」は、他分野よりも登録商標の分布が「食品区分に集中」しており、かつ、「食品区分における登録商標数が多い」ことがわかった。

 詳細には、「各分野ごとの全区分の登録商標数に対する、食品に対応する区分(第29類~第33類)の登録商標数の割合(%)」については、「食品分野:41.9%」「医学・衛生分野:9.0%」「化学分野:9.0%」「運搬・包装・貯蔵分野:3.5%」「電子機器・ソフト分野:5.0%」「農林漁業:2.0%」「機能素材分野:25.0%」「電気分野:4.4%」「輸送機分野:1.2%」であった。

 「食品区分の割合(%)」については、「食品分野」が圧倒的に高く、次いで「機能素材分野」がかなり高く、続けて「医学・衛生分野」「化学分野」が比較的高く、その他の分野は低い数値となった。この結果により、各分野の企業における「食品分野」への注力度合いの傾向がわかった。

 また、「各分野ごとの「食品」分野における食品に対応する区分(第29類~第33類)の登録商標数に対する、「他の分野」における食品に対応する区分(第29類~第33類)の登録商標数の比」については、「食品分野:1」「医学・衛生分野:0.49」「化学分野:0.40」「運搬・包装・貯蔵分野:0.08」「電子機器・ソフト分野:0.31」「農林漁業:0.03」「機能素材分野:0.24」「電気分野:0.26」「輸送機分野:0.11」であった。

 「食品分野に対する比」については、「医学・衛生分野」「化学分野」が高く、次いで「電気分野分野」「電子機器・ソフト分野」が高く、続けて「機能素材分野」が高い数値となった。そして「輸送機分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「農林漁業分野」は、かなり低い数値となっている。この結果により、各分野における食品区分への実際の注力度合いの傾向がわかった。

 上述より、「食品区分の割合(%)」が高い分野は、事業面において食品分野に注力していると考えられ、「食品分野に対する比」が高い分野は、事業面において実際に食品分野に投入した商品や内部資源が大きいと考えられ、いずれかの数値が高い分野は、事業面において食品分野(企業)との競合度合いが大きいと考えられる。

 ここで、「食品分野」においては、「食品区分の割合(%)」「食品分野に対する比(登録商標数)」ともに他の分野よりも大幅に高い数値であり、注力度合いも、実際に食品分野に投入した商品数も多く、投入した内部資源も大きいであろうことが確認された。

 

 

         <表 8> 食品区分における登録商標数の比較

 

②最も古い登録日の比較

 商標調査により、各分野の企業における食品区分(第29類~第33類)の「最も古い登録商標の登録日」を比較した。具体的には、以下の手順で調査・分析を行った。

Ø  登録商標調査

 ・使用DB:J-PlatPat

 ・検索項目:「区分」×「出願人/書換申請人/権利者/名義人」

 ・区分:2930313233(食品区分)

 ・各企業ごとに、食品区分において最も古い登録商標の登録日を調査した。

Ø  商標調査の結果を分析

 ・各分野ごとに「食品に対応する区分(第29類~第33類)における最も古い登録日の平均(年月日)」を算出した(表9参照、分野ごとの平均登録日(年)を記載)。各分野における食品事業の期間(伝統)を把握することを試みた。

 

 結果は、表9に示す通りであり、「食品分野」は、食品区分における最も古い登録商標の登録日が「他の分野よりも大幅に古い」ことがわかった。「食品分野」の企業は、食品事業において相当の「伝統」を有することがわかった。

 詳細には、「各分野における食品区分の最も古い登録商標の登録日(分野平均、年)」については、「食品分野:1939年」「医学・衛生分野:1966年」「化学分野:1956年」「運搬・包装・貯蔵分野:1967年」「電子機器・ソフト分野:1981年」「農林漁業:1984年」「機能素材分野:1959年」「電気分野:1967年」「輸送機分野:1988年」であった。

 上述の「最も古い登録商標の登録日」については、「食品分野」が圧倒的に旧く、次いで「化学分野」「機能素材分野」が旧く、続けて「医学・衛生分野」「電気分野」「運搬・包装・貯蔵分野」が旧く、その他の「電子機器・ソフト分野」「輸送機分野」は最も新しいという状況であった。この調査により、各分野における食品事業の期間(伝統)を把握することができた。

 上述より、「最も古い登録商標の登録日」がより古い分野は、食品分野における事業開始が旧く、「食品事業において伝統」を有すると考えられる。「食品事業において伝統」を有することは、「食品」における重要なポイントである「安心・おいしさ・安全(表7参照)」につながると考えられ、食品事業において有益な状況であると考える。「食品分野」の企業においては、長期間の食品事業活動に基づく信用は大変重要であり、「他の分野」の企業と競合する際における重要な「強み」の一つであると考えられる。

 

 

         <表 9> 最も古い登録日(分野平均)の比較

 

6.競合領域における知財戦略

 

 上述した競合状況において、各分野ごとの知財戦略の特徴および相違は、上述の通りである。競合領域における知財戦略立案においては、競合する分野同士の知財戦略を比較し、必要に応じて自己の分野における強みを発揮できるように工夫すると共に、競合する分野の戦略を理解し対応すべきポイントには積極的に対応するという視点が必要である。

 各競合領域における競合状況に対応した知財戦略は、競合する分野同士についての検討だけでなく、各企業における競合状況や内部状況等により検討・採用すべき個別のポイントが異なる。そのため、各競合領域において各分野の企業が採用すべき知財戦略が一概に定まるわけではない。各企業が自社の属する分野や競合状況等を検討し、自社の立ち位置および競合企業等を把握し、上述の知財戦略比較等から自社と競合企業との強み・弱みの比較をし、採用すべき知財戦略を検討する必要がある。

 そのため、知財戦略立案においては、各企業が個別に検討する必要があり、画一的な検討はできないが、競合状況ごとの基本的な対応事項については共通事項として、以下に簡単に説明する。

 

(1)競合領域Aにおける基本的な対応事項

 

 まず、競合領域Aは「食品企業が進出して生じた」ものであり、実際に事業活動等において競合するのは「競合領域A」として抽出された分野である。つまり、「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「農林漁業分野」「電子機器・ソフト分野」それぞれにおいて、事業活動がなされ、競合する。

 そのため、「食品企業」は、アウェイの分野である「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「農林漁業分野」「電子機器・ソフト分野」における知財戦略・慣行等に対応する必要がある。つまり、「食品分野の企業」側が、進出先の分野における上述の知財戦略のポイント・比較を参照して、相違点・不足点を抽出し、しっかりと対応する必要がある。食品企業にとっては、機械・電気・ソフト系の分野において知財活動をすることがそもそも難しいことであるので、しっかりとした対応が必要である。

逆に、ホームである「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「農林漁業分野」「電子機器・ソフト分野」の企業は、「食品分野」における知財戦略等を理解し、強み・弱みを把握しておく必要がある。

 

(2)競合領域Bにおける基本的な対応事項

 

 続けて、競合領域Bは「非食品企業が「食品分野」に進出して生じた」ものであり、実際に事業活動等において競合するのは「食品分野」である。つまり、「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「機能素材分野」「電気分野」「輸送機分野」の企業は、「食品分野」において事業活動し、食品企業と競合する。

 そのため、「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「機能素材分野」「電気分野」「輸送機分野」は、アウェイの分野である「食品分野」における知財戦略・慣行等に対応する必要がある。「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「機能素材分野」「電気分野」「輸送機分野」の企業側が、「食品分野」における上述の知財戦略のポイント・比較を参照して、相違点・不足点を抽出し、しっかりと対応する必要がある。「食品分野」特有の事項が多くあるので、しっかりとした対応が必要である。

逆に、ホームである「食品分野」の企業は、「医学・衛生分野」「運搬・包装・貯蔵分野」「化学分野」「機能素材分野」「電気分野」「輸送機分野」における知財戦略等を理解し、強み・弱みを把握しておく必要がある。

 

7.おわりに

 

本調査研究において、「食品分野」をとりまく「競合状況」について調査・分析を行うと共に、競合する各分野における知財環境や知財戦略について調査・分析を行った。これにより、競合領域において「食品分野」の企業が知財戦略立案等に際して検討すべき視点を提供すると共に、「競合分野」の企業が知財戦略立案等に際して検討すべき視点を提供することを試みた。

 

 本調査研究により抽出された情報や知見が、食品分野の企業をはじめ、各分野の企業における知財活動に役立つことを期待する次第である。

(参考文献)

(1)株式会社四季報ONLINE, 33 業種「食料品」の銘柄一覧(東証一部),[オンライン]. Available:

https://shikiho.jp/services/Query?SRC=shikiho/market/secList/base & code=324. [アクセス日: 2018.1.5]

(2)特許庁,業種別出願件数階級別の知的財産部門の活動状況について知的財産担当者数平成28 年度知的財産活動調査結果統計表,第1-2 表,平成28 年.

(3)日本知的財産協会,わが社の知財活動,知財管理.Vol.46No 31996-Vol.67No 112017

(4)財団法人知的財産研究所,企業等の知的財産戦略の推進に関する調査研究報告書,平成22 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書,特許庁,平成23 2 月.

(5)社団法人発明協会,実施料率(第5版),2003

(6)株式会社帝国データバンク,・知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜,特許庁,平成22 年.

(7)一般財団法人知的財産研究所,平成26 年度特許庁知的財産国際権利化戦略推進事業報告書,特許庁,平成27 年.

(8)ƒ拒絶理由通知への対応〜基礎・対応事例・国内内外比較〜,株式会社特許情報機構,2012

(9)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社,平成28年度特許庁知的財産国際権利化戦略推進事業調査研究報告書,‡特許庁,平成29

(10)三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社,平成27 年度特許庁知的財産国際権利化戦略推進事業調査研究報告書,特許庁,平成28

(11)財団法人知的財産研究所,平成25 年度特許庁知的財産国際権利化戦略推進事業報告書,特許庁,平成26

(12)特許庁,平成27 年度特許出願技術動向調査報告書(概要)香料関連技術,平成28

(13)特許庁,平成26 年度特許出願技術動向調査報告書(概要)農業関連技術,平成27

(14)特許庁,特許から見た容器包装分野の環境技術の現状と今後の課題,平成12 8 月.[オンライン]. Available: https://www.jpo.go.jp/shiryou/1208029_youki.htm . [アクセス: 2018.1.12].

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