第4次産業革命による業態変化が知財戦略・活動に与える影響についての一考察

 近年、第4次産業革命への対応が重要視されている。例えば、日本再興戦略やロボット新戦略等に続き、「未来投資戦略2017」において、「中長期的な成長を実現していくため、第4次産業革命の技術革新をあらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決するSociety 5.0を世界に先駆けて実現する」こととしている [1]。第4次産業革命の技術革新について、単に技術面の革新ではなく、社会解決を解決する手段と捉えられている。その結果、様々なソリューションやサービスとして具現化され、社会に提供されることが予測される。従来のように、製品、モノではなく、ソリューションやサービスの提供が重要になっている。

 上述のように、第4次産業革命が進むなか、技術的にはIoT、ビックデータやAIの活用等のデータ主導化が進み、事業的にはサービス化やソリューション化等が進んできている。第4次産業革命により、企業における業態が大きく変化してきている。そして、このような変化は、知財戦略・活動にも大きく影響する。

 本研究では、知財情報を分析し、上述の業態変化による知財戦略・活動への影響を把握することを試みる。また併せて、上述の分析結果および近年の知財環境を踏まえ、今後の知財戦略・活動について検討する。

 (IPNJ国際特許事務所 弁理士)乾 利之・(東京工業大学大学院 教授)田中 義敏

 

Study on the influence on IP strategy and activities caused by changes in business conditions in the fourth industrial revolution

IPNJ PATENT ATTORNEYS OFFICE Toshiyuki, Inui; 

Department of Industrial Engineering and Economics, School of Engineering, Tokyo Institute of Technology Yoshitoshi, Tanaka 

1.背景および目的

 近年、第4次産業革命への対応が重要視されている。例えば、日本再興戦略やロボット新戦略等に続き、「未来投資戦略2017」において、「中長期的な成長を実現していくため、第4次産業革命の技術革新をあらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決するSociety 5.0を世界に先駆けて実現する」こととしている [1]。第4次産業革命の技術革新について、単に技術面の革新ではなく、社会解決を解決する手段と捉えられている。その結果、様々なソリューションやサービスとして具現化され、社会に提供されることが予測される。従来のように、製品、モノではなく、ソリューションやサービスの提供が重要になっている。

 上述のように、第4次産業革命が進むなか、技術的にはIoT、ビックデータやAIの活用等のデータ主導化が進み、事業的にはサービス化やソリューション化等が進んできている。第4次産業革命により、企業における業態が大きく変化してきている。そして、このような変化は、知財戦略・活動にも大きく影響する。

 本研究では、知財情報を分析し、上述の業態変化による知財戦略・活動への影響を把握することを試みる。また併せて、上述の分析結果および近年の知財環境を踏まえ、今後の知財戦略・活動について検討する。

2.知財情報分析

 IoT、ビックデータ、AI等を中心とする第4次産業革命が進むなか、各産業において、データ主導型の改革が行われており、業態変化が進んでいる。知財情報分析においては、IoT、AI等の活用度合い、サービス・ソリューション化の進展等につき、特許情報、商標情報および意匠情報それぞれの視点で調査分析する。

 1)特許情報分析

 第4次産業革命の重要な要素であるセンサーデバイス、大容量・高速通信、ビックデータ、AI、IoTおよびビジネスモデル関連発明は、互いに関連し、例えば、図1のような関係にある。本特許情報調査においては、AI、IoTおよびビジネスモデル関連発明を中心に、サービス・ソリューション化の視点も踏まえた調査分析を行った。 

 (1)Gセクション

 ①ビジネスモデル関連発明を含むコンピュータソフトウェア関連発明等に付与されるIPC分類である「Gセクション」について、件数推移および割合(対公開件数(全体))について調査した。サービス・ソリューション化の視点を踏まえた調査分析である。表1に示すように、Gセクションの割合(対公開件数(全件))は増加傾向であることが確認された。

 ②Gセクションにおける各分野の件数割合(対公開件数(全件))および推移等を調査した。表2に示すように、Dセクション(繊維・紙)の件数割合および増加率(対2014年)が低いものの、他のセクションは、一定件数割合であり、増加傾向であることがわかった。件数割合としては、G×H(電気)、B(処理操作・運輸)の件数割合が高く、増加率ではEセクション(固定構造物)、Aセクション(生活必需品)およびBセクション(処理操作・運輸)が高いことがわかった。

4)ビジネスモデル関連発明

 上述のGセクションのうち、ビジネスモデル関連発明(G06Q)について、各年の出願件数推移、割合(対出願数(全体))および増加率(対2013年)について調査した。表3に示すように、G06Q合計の割合(対出願数(全体))は、増加傾向にあることが確認された。また、G06Qにおける各産業分野の出願件数は、全体的に維持または増加傾向であり、増加率(対2013年)より全産業分野で増加していることが確認された。

(2)IoT関連発明

 IoT関連発明(全体)の件数(公開件数)推移や各分野ごとの件数について調査した。まず、IoT関連発明(広域ファセット:ZIT)の各年の件数推移を調査した。表4に示すように、IoT関連発明(ZIT)の件数は増加傾向にあり、特に2014年以降は大幅に増加していることがわかった。また2018年においては更に急増していることが確認された。

 続けて、各分野におけるIoT関連発明の件数および割合(対IoT関連発明全体)について調査分析した。表5に示すように、いずれの分野においても一定件数以上のIoT関連出願がなされていることがわかった。特に、サービス業務用(ZJM)、運輸用(ZJT)、ホームアンドビルディング用・家電用(ZJG)の分野における件数・割合が多いことがわかった。

 

 (3)AI関連発明

 AI関連発明(全体)および各技術分野ごとの出願件数推移、割合(対出願件数(全体))および増加率(対2013年)について調査した。表6に示すように、AI関連発明合計の件数および割合(対出願数(全体))ともに、増加傾向にあることが確認された。特に、2016、17年においてより高い増加傾向であることが確認できた。また、AI関連発明における各技術分野の出願件数は、全体的に増加傾向であることが確認され、増加率(対2013年)より、特にB25J(マニュピレータ)、G05B(制御系・調整系一般)、H04N(映像処理)、G06Q(ビジネス)、G06T(画像処理)が増加していることが確認された。 

 2)商標情報分析

(1)指定役務

 指定商品(第1~34類)の件数と指定役務(第35~45類)との件数(出願)割合の推移を調査した。表7に示すように、2014年から指定役務の件数割合が増加し、2016年で指定商品の件数割合と逆転し、近年は指定役務の件数割合の方が多くなっていることが確認できた。また、指定役務全体の増加率(対2013年)が+357%であり、5年間で4.5倍に増加していることがわかった。各区分においても件数が増加傾向であり、特に45類、39類、38類、37類、37類、42類が増加傾向であることが確認された。 

 

 (2)商標:第4次産業革命の技術キーワード

 第4次産業革命の技術キーワードについて、商標(検索用)調査を行った。表8に示すように、第4次産業革命の技術キーワードを含む商標(別の意味として出願された商標もあるが)が一定数登録等されている。特に2015年以降に登録された件数も多く、これらは第4次産業革命のキーワードであることを認識して出願・登録されたものであると考えられる。商標分野において、第4次産業革命の影響が及んでいること、技術キーワードについて商標出願競争等が生じ得ることが示唆されていると考える。

 (3)指定商品・役務:第4次産業革命により生じた事業

 第4次産業革命の技術キーワードを含む指定商品・役務を調査した。表9に示すように、第4次産業革命の技術キーワードを含む指定商品・役務は存在しており、当該分野における事業化が進んでいると予想される。また、これらの区分としては役務の区分が多いことも確認された。

3)意匠情報分析

 画像を含む意匠出願(画像系)の件数推移、割合(対出願(全体))について調査した。表10に示すように、画像系の件数・割合とも減少傾向であった。ここで、画像を含む意匠出願(画像系)のうち、意匠分類H7(電子情報入出力機器)を除いた出願件数の推移および割合(対画像系(全体))について調査した。表10に示すように、画像系(H7除く)の件数割合は増加傾向であり、電子情報入出力機器以外の分野において画像を含む意匠の開発・出願が増加していることが確認された。

4)法改正・審査基準改定

(1)IoT・AI審査基準の拡充

(2)意匠の改正法:物品の拡充(物品に記録・表示されていない画像:①クラウド上に保存され、ネットワークを通じて提供される画像、②道路に投影された画像)

 上記(1)によりIoT・AIの開発および事業化が推進され、(2)によりデジタル画像の開発・事業化が推進されると予想される。

3.まとめ

〇特許:①ビジネスモデル関連発明をはじめ、システム・サービス化が進行している。②AI、IoTの活用が進んでいる。③知財行政面でもAI、IoTは重要視されている。

〇商標:①役務(サービス)関連の商標出願の割合が商品関連の商標出願より多くなっている。②第4次産業革命の技術ワードが出願されている。③第4次産業革命に関連する事業が進行していると予想される。

〇意匠:①画像を含む意匠のうち電子情報入出力機器を除く分野において出願件数・割合が増加している。②法改正により、ネットワークを通じて提供される画像や道路に投影された画像等が保護対象になる。デジタル意匠が増加すると考えられる。

〇上述より、特許、商標、意匠について、より一体的な開発・知財活動が必要になる。

〇 デジタル・情報を視点として、特許と意匠との連携・連動が新しい知財活動となる。

〇商標については、全業種共通の技術ワード等について、出願競争になるケースが生じる。また、商標業務において、法律面に加え、技術面の理解がより必要になる。

〇 上述を含め、知財MIXではなく、社会・技術における解決すべき課題から、発明・意匠・商標ブランドの活動が同時に始まる体制が好ましいと考える。 

<参考文献>

[1] 総務省, “第1章 第 4 次産業革命がもたらす世界的な潮流,” 第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究, p. 6, 2017.

 

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