商標情報を利用した知財活動および知財戦略の検討

 近年、知財情報分析および分析結果の事業・経営戦略への活用が重要になっている。知財情報のうち、特許情報の分析は従来から積極的に行われているが、商標情報の分析は活発に行われているとはいえない。

 しかし、商標出願は、事業化・商品化意思決定の結果を反映しており、事業・商品等との結びつきは特許に比べて強いという特徴がある。

 本検討において、商標情報等を利用した知財活動および商標情報等に基づく知財戦略について、説明・提案している。

 具体的には、商標情報分析による新商品予測および事業分析の方法について説明している。また、ブランドや商品・サービスにおける重要な要素の一つであるネーミングについては、商標情報を分析して、事業活動への寄与するネーミングについて検討している。更には、第4次産業革命の技術革新における企業業態の変化を商標情報分析により確認し、業態変化に適した知財戦略・活動(ブランド・商標面)について検討している。

 (IPNJ国際特許事務所 弁理士)乾 利之

 

Study on IP activities and IP strategies based on trademark information

IPNJ PATENT ATTORNEYS OFFICE Toshiyuki, Inui; 

【目次】

 1.はじめに

2.商標情報

3.商標情報等を利用した知財活動

 1)新商品予測

 2)競合企業の事業分析

 3)事業活動に寄与するネーミング

4.商標情報等に基づく知財戦略

 1)第4次産業革命への対応(商標の側面)

 2)ブランド構造の変化

 3)ブランド・商標体制

5.おわりに

1.はじめに

 近年、IPランドスケープ(intellectual property landscape)が注目され、知財情報分析および分析結果の事業・経営戦略への活用が重要になっている。知財情報は、単に知財関連の出願情報ではなく、技術動向、各業界の動向や競合他社状況を把握・予測するための有効な情報であり、事業・経営戦略の検討・立案に重要な情報であると認識されてきている。

 ここで、知財情報のうち、特許情報の分析は従来から積極的に行われており、例えば,特許庁において,多数の技術分野において特許出願技術動向調査が行われている [1]。 また,企業内においては,競合企業の特許情報を取得すると共に,取得した特許情報を利用してパテントマップ等を作成することで,競合企業の事業分析や新商品予測等がなされている。

 これに対し、商標情報の分析は活発とはいえない。商標が選択物であり累積的な進歩等とは関係なく、動向調査等に向かないことや、特許情報に比べて含まれる情報が少ないこと等、全体的に分析より得られる知見が少ないと考えられていることが要因の一つである。

 しかし、図1に示すように、商標出願は、事業化・商品化の意思決定の結果を反映していることや、商標権の利用率も高く、商品・サービスとの結びつきは特許に比べて強いという特徴がある。また、各商品・サービスに対応する商標は1~数件(特許は分野にもよるが数十件~数千件)であるため、利用率の高さと併せて考えると、商標と商品・サービスとの結びつきはより強いといえる。商標情報は,事業を担当する部署を含め複数の部署が新商品について検討した結果を示す事業情報の一つであり,更には,これから上市する新商品等に関する事前情報でもある。そのため、商標情報は,事業分析や新商品予測に役立つ情報であると考えられる。 

 また、ネーミングは、ブランドや商品・サービスにおける重要な要素の一つである。ブランドのイメージに対する影響だけでなく、商品・サービスの売上・利益や広告宣伝費等への影響もある。ネーミングは、知財部門だけでなく、事業部門の知財活動という意味でも非常に重要である。

 ここで、ネーミングは、商品・サービスを提供する事業部門の担当者が商品イメージやそれまでのブランドの流れ等を勘案し、個別に検討・提案する場合が多い。ネーミングは、事業活動において重要な要素であるにも関わらず、明確な指針が示されておらず、都度、良いと考えられるネーミングがなされているのが現状である。「事業活動に寄与する商標」という視点で、商標情報を利用し、ネーミングについて何らかの客観的な傾向を把握して、方針が提示されることが期待される。

 また、事業活動を取り巻く外部環境も大きく変化している。特に、第4次産業革命の進行の影響は大きいと考える。例えば、Society 5.0において、第4次産業革命の技術革新は、単に技術面の革新ではなく、社会解決を解決する手段と捉えられている[2]。その結果、革新的な技術は、様々なソリューションやサービスとして具現化され、社会に提供されることが予測される。従来のように、製品、モノではなく、ソリューションやサービスの提供が重要になっている。

 図2に示すように、技術的にはIoT、ビックデータやAIの活用等のデータ主導化が進み、事業的にはサービス化やソリューション化等が進んできている。第4次産業革命により、企業における業態が大きく変化してきている。そして、このような変化は、商標活動・戦略にも大きく影響する。

 以下、商標情報等を利用した知財活動および商標情報等に基づく知財戦略について、説明・提案する。

2.商標情報

1)商標情報の有用性および利用の視点

(1)商標情報

 ①商標情報に含まれる情報および視点

 商標情報は、「書誌事項」「商標」「区分(分類)」「指定商品・役務」の情報を含む。図3に示すように、「書誌事項」は、「出願人」情報や「出願日」情報を含む。事業面からみて、「出願人」情報は、事業活動の主体であり、新商品・サービスを発売・提供する企業等の情報である。「出願日」情報は、後述するように新商品・サービスを発売・提供開始日を予測する基準日の情報である。

 「商標」「区分(分類)」「指定商品・役務」については、事業視点で、「出願種類」「商品特徴・機能」「事業範囲」「ブランド」に分類して説明する。「商品種類」情報は、「指定商品・役務」「区分(分類)」から抽出可能である。「商品特徴・機能」情報は、「商標」「指定商品・役務」から抽出可能である。「事業範囲」情報は、「区分(分類)」「指定商品・役務」から抽出可能である。「ブランド」情報は、「商標」「指定商品・役務」における継時的に蓄積された情報から抽出可能である。

 商標情報は,新商品・サービスに関する事前情報であり、出願人の事業活動の情報である。商標情報は,新商品を予測するための情報、各企業の事業活動を予測するための情報として有意義な情報であるといえる。

(2)他情報による補完等

 商標情報は、有益な情報が含まれるが、情報量が少ないため、他の情報と組み合わせることで、より有益な情報・知見を抽出することができる。

 ①特許情報

 商標情報と特許情報とを組み合せることで、新商品・サービスの詳細な内容、例えば、機能、用途、使用方法、需要者等の情報を抽出できる。商標情報には、新商品・サービスの内容に関する情報は少ないため、特許情報を補完することで、得られる知見・予測等の質・精度が向上する。

特許情報分析の蓄積により、競合企業の研究開発の動向を把握できているような場合、逆に商標情報を補完として組み合せることで、新商品・サービスの内容が特定できる。

以下においては、商標情報をメインにした分析方法等を提案・説明している。

 

②事業活動の情報(売上・利益・宣伝広告費等)

 商標は、事業活動に密接に関係するものである。商標情報には、商標出願の個別内容だけではなく、例えば、競合企業における商標出願群の各種情報があり、これらは事業分析や動向分析に有効である。このような商標情報として、例えば、「出願件数」「区分の件数・割合・推移」「指定商品・役務の件数・割合・推移」等が例示できる。

 そして、このような商標情報と、事業活動の情報(例えば、売上・利益・宣伝広告費)とを組み合せることで、競合企業の事業分析や、事業活動に寄与する商標に関する知見の抽出が期待できる。

 

2)商標情報等を利用した知財活動の例[3]~[6]

 商標除法等を利用した知財活動の例として、以下の活動について提案・説明する。

 ①新商品予測

  ・「指定商品・役務」「商標」を分析することで、新商品・サービスを予想する。

  ・商標情報分析では新商品・サービスについての十分な情報が抽出できなかった場合、商標情報の分析結果(抽出情報)を「キーワード」として入力して特許調査をする。更には、「指定商品・役務」を「IPC(国際特許分類)」に変換し、変換した「IPC(国際特許分類)」を入力して特許調査をする。これら特許調査を分析することで、新商品・サービスを予測する。

 

 ②競業企業の事業分析

  ・「区分の件数・割合・推移」「指定商品・役務の件数・割合・推移」等を分析することで、競合企業の事業分析を行う。

  ・また、上記分析結果と事業活動の情報(売上・利益)とを組み合せることで、競合企業の事業分析を行う。

 

 ③事業活動に寄与するネーミング

  ・「商標」を「示唆的商標」「非示唆(独創)的商標」に分類し、「示唆的商標」の割合である「示唆率」を算出する。

  ・「示唆率」と「事業活動の情報(売上・利益・宣伝広告費)」とを組み合せることで、事業活動に寄与するネーミングについて検討する。

 

3)商標情報等に基づく知財戦略の例

 商標情報等に基づく知財戦略の例として、以下の活動について提案・説明する。

 ①第4次産業革命への対応(商標の側面)[7]

 ・「区分」「指定商品・役務」を分析することで、サービス化、IoT・AI等の第4次産業革命に関するサービス事業の進行等を確認する。

 ・また、「商標」を分析することで、第4次産業革命の技術キーワードの出願状況を確認する。

 ②ブランド構造の変化

 ・上述の調査結果によりブランド構造の変化が示唆・確認される。ブランド構造の変化、具体的には、サービス化、ソリューションビジネス化により生じるブランド構造の変化について検討する。

 ③ブランド・商標体制

  ・上述のブランド構造変化に対応するためのブランド・商標体制について検討する。

 

 以下、「商標情報等を利用した知財活動の例」「商標情報等に基づく知財戦略の例」について説明する。

 

3.商標情報等を利用した知財活動

1)新商品予測

(1)時期

 図4に示すように、通常、新商品の発売やサービスの開始より相当期間前に研究開発が開始され、適宜、特許出願がなされる。研究開発された発明・技術群のうち所定割合について、商品化の企画がなされる。そして、商品の企画時から所定のタイミングで新商品名等について商標出願がなされる。

 ここで、図5に示すように、商標出願は、商品(サービス)の企画時から所定期間後になされる[8]。分野によって異なるが、商品(サービス)の企画時から1年以内に商標出願されている。

 また、商品化までの期間として、平均5.4年(研究開発が平均3.7年、商品化が平均1.7年(2009年))という調査結果がある[9 ]。この商品化の期間が平均1.7年であることから、商標情報公開(出願公開)から新商品・サービスの発売等までの期間は、約6月(企画から1年後に商標出願+公開までの期間)~1年6月(企画時に商標出願+公開までの期間)程度であると考えられる。この期間は、何らかの事業的な対応をとることが可能な期間であり、商標情報を利用した新商品・サービス予測は、事業活動にとって有益であると考える。

 また、競業企業における新商品等の発売時期と商標出願日との関係を蓄積することで、新商品等の発売開始時期を精度よく予測することができる。これらの関係は、企業ごとに特徴があることが多い。

(2)全体手順

 新商品・サービス予測の手順全体について説明する。図6に示すように、まず、「指定商品・役務」を分析する。「指定商品・役務」の分析結果から抽出された情報が十分である場合、商標情報からの情報のみで新商品・サービスの内容を予測する。「指定商品・役務」から情報が抽出されない場合、および抽出された情報が十分ではない場合、続けて、「商標」の分析を行う。

 「商標」の分析結果から抽出された情報が十分である場合、商標情報からの情報のみで新商品・サービスの内容を予測する。抽出された情報が十分ではない場合、商標情報からの情報で新商品・サービスの内容を予測すると共に、抽出された情報を利用して特許調査を行う。商標情報と特許情報とを組み合せて、新商品・サービスの内容を予測する。

 「商標」から情報が抽出されない場合、「指定商品・役務」を「IPC(国際特許分類)」に変換して、変換した「IPC(国際特許分類)」により特許調査をする。商標情報に基づく情報を利用して得た特許情報により、新商品・サービスの内容を予測する。

 

(3)指定商品・役務の分析

 図7に示すように、「指定商品・役務」は、「指定商品・役務(上位)」「指定商品・役務(下位)」「指定商品・役務(追加)」を含む。「指定商品・役務(上位)」は、特許庁が提供する「類似商品・役務審査基準」において,上位商品・役務としてボックス内の記載されている商品・役務である。

 「指定商品・役務(下位)」は、「類似商品・役務審査基準」において,主にボックス外に列挙されている商品・役務である。

 「指定商品・役務(追加)」は、「類似商品・役務審査基準」に含まれない新規な商品・役務である。「指定商品・役務(追加)」には、①新規な指定商品・役務、②従来の指定商品・役務に機能・用途等の記載が含まれる指定商品・役務である。

 ここで、「指定商品・役務(下位)」「指定商品・役務(追加)」は、審査において適当であると判断(容認)された指定商品・役務であり、表1に示すように、指定商品・役務の種類のうち61.5%の割合である[10]。表2に示すように、「指定商品・役務(下位)」の割合が高い区分は、「サービス系」「飲食系」「健康・コスメ系」の区分(分類)である。

 審査時における類似範囲,登録後の不使用審判による取消,係争時における権利範囲等の実務における要請より,出願人は,指定商品・役務に,実際に当該商標を使用する商品・役務を含ませる。つまり,「指定商品・役務(下位)」「指定商品・役務(追加)」は,出願人が使用する意思が特にある指定商品・役務であるといえる。

 上述より,「指定商品・役務(下位)」「指定商品・役務(追加)」を分析することで,新商品等の種類を特定する情報の抽出が期待される。

 

(4)商標の分析

 商標のタイプとして、示唆的商標(示唆系)と、独創的商標(非示唆系)とが存在する。示唆的商標は、商品・サービスの機能、用途、品質や需要者等を示唆する用語等を含む商標である。企業が出願した商標のうち示唆的商標の割合(示唆率)は、おおよそ40%~90%、平均72.1%であるという調査結果がある(前述[5]参照)。示唆的商標の割合(示唆率)は、「商標」から新商品・サービスの内容を予測するには十分高い割合であると考える。

 

 「商標」の分析としては、上述の示唆的商標の抽出が中心である。また、図8に示すように、商標をタイプ別に分類することもできる。具体的には、商標を,「示唆系」「非示唆(独創)系」に分類すると共に、「示唆系」「非示唆(独創)系」を更に細分化して分類する。

 

 「示唆系」は、「示唆系①(示唆的商標)」「示唆系②」に分類される。

 「示唆系①」は、示唆的商標である。「示唆系①」は、例えば、特許情報との連携を想定し,「機能型」,「用途型」,「効果型」,「対象者型」,「構成型」,「分野型」に分類される。

 「示唆系②」は,「ブランド商標」を含む商標が分類される。「示唆系②」は,直接的な示唆ではないが,ブランドに関する情報を収集することで,間接的に新商品に関する情報を取得できるので、「示唆系」としている。

 

 また,「非示唆(独創)系」は,「造語型」,「キャラクタ型」,「イメージ型」,「コーポレートブランド型」に分類できる。「非示唆(独創)系」の商標から新商品・サービスの内容を予測することは難しい。

(5)特許情報との組み合せ

 ①キーワード検索

 上述の視点で商標情報から抽出された情報は,新商品の特徴や効果等を予測する情報として有意義な情報である。しかし,「商標」や「指定商品・役務」に含まれる情報量は多いとはいえず,新商品・サービスの構成や機能の詳細についての情報を抽出することが難しい場合もある。

 ここで,図9に示すように、商標情報から抽出された情報を「キーワード」として特許検索することで,新商品・サービスに関する特許情報を抽出できる。これにより、新商品・サービス内容の詳細な予測が期待できる。例えば、「指定商品・役務(下位)」「指定商品・役務(追加)」から抽出された新商品・サービスの種類・カテゴリー、品質・機能等の情報をキーワードとして特許検索することで、新商品・サービスに関連する特許情報の抽出が期待できる。また、「商標」における「示唆系①」「示唆系②」により抽出された新商品・サービスの品質・機能等の情報や特定ブランドにおける特徴等の情報をキーワードとして特許検索することで、新商品・サービスに関連する特許情報の抽出が期待できる。

 特許情報含まれる新商品・サービスの技術面における情報は詳細であるので、新商品・サービスの詳細な内容の予測が期待できる。

 

 ②「指定商品・役務」⇒「IPC(国際特許分類)」への変換

 次いで,商標情報自体から新商品・サービスの内容を示唆する情報等が十分に抽出されず、かつ、特許検索に必要なキーワードを設定する情報も抽出できない場合における対応も検討する。

 表3に示すように、「指定商品・役務」と,「IPC分類(国際特許分類)」とを対応させることができる。つまり、「指定商品・役務情報」を,特許検索のキー情報となる「IPC分類(国際特許分類)」に変換することができる。そして、変換した「IPC分類(国際特許分類)」を利用して特許検索することで、新商品・サービスに関する特許情報の抽出が期待できる(図9下段)。

 これにより,商標情報自体から新商品・サービスの内容を示唆する情報等が十分に抽出されず、かつ、特許検索に必要なキーワードを設定する情報も抽出できない場合においても、新商品・サービスと一定程度関連する特許情報の抽出が可能である。

 

 また、上述の商標情報から抽出された情報を「キーワード」とする場合においても、「指定商品・役務」を変換した「IPC分類」を利用した特許検索を併用することで、関連する特許情報の検索精度を向上させることができる。

 ③知財実務での活用

 上述の新商品・サービス予測方法は、従来の特許情報のみのウォッチング方式に比べて、効率面、作業負担等の面で好適である。

 図10に示すように、従来の特許ウォッチング方法である「特許プッシュ式」は、技術に詳しい専門家・担当者が常時・長期間、特許のウォッチングを継続的に行い、蓄積された特許情報を分析することで、特徴的な発明を発見し、関連発明の増加や商品・サービスをサポートする改良発明等の出願動向を把握することで、新商品・サービスの情報を抽出・蓄積している。「特許プッシュ式」では、専門家・担当者の配置、長期間・重い作業負担、更には、新商品・サービスの発売等の時期は予測しにくい等の問題がある。

 

 これに対し、本方法である「商標プル式」は、商標情報から抽出した「キーワード」「IPC分類」を利用してピンポイントで特許調査できるので、専門家・担当者による長期間のウォッチングや特許情報分析の蓄積等は不要である。また、商標と事業との連携性は高く、商標権の利用率も高いので、予測の確実性も高く、新商品・サービスの発売等の時期の予測精度も高い。

 上述より、「商標プル式」の新商品・サービス予測方法は、ブランド・商標部門の実情に対応した予測方法であるといえる。

2)競合企業の事業分析

(1)概要

 商標出願は、「商標」「区分」「指定商品・役務」を含む。「商標」は、ブランド、商品やサービスにおける目印・アイコンであり、「区分」は事業種類であり、「指定商品・役務」は商品・役務の種類である。また、特許庁が設定する「類似群」は、事業種類や指定商品・役務群を示すものである。

 ここで、「商標」はブランド、商品やサービスにおける目印・アイコンであり、商品やサービスが新しくなる都度、変更される。これに対し、「区分」「指定商品・役務」は、出願人のビジネス範囲を規定するものであり、各事業ごとに固定される。

 商標出願は、「商標」ごとに出願されており、件数分析は、「商標」の件数について分析される。

 ここで、以下においては、「商標」の件数ではなく、「区分」「指定商品・役務」の件数を視点として、競合企業の事業分析をする方法について説明する。

(2)分析方法

 商標出願には,制度上、「一つの「商標」」+「1または複数の「区分」」+「複数の「指定商品・役務」」が含まれている。しかし、実質的には、複数の「商標+(区分+)指定商品・役務」の集合であるといえる。つまり、商標出願により、「複数の「指定商品・役務」について一つの同じ「商標」の出願」がなされているといえる(図13参照)。「区分」についても同様である(図12参照)。

 以下、「指定商品・役務」「区分」ごとに、何種類(何件)の「商標」についての出願がなされているか(出現数)を視点として、競合企業の事業分析を検討する。

 

 ①「区分」視点

 図12に示すように、まず、商標出願X,Y,Zそれぞれを、区分ごとにバラバラにする。「商標X+区分A」「商標X+区分B」「商標Y+区分A」「商標Y+区分C」のように分解する。そして、主従を逆にして区分中心に再集計する。これにより、例えば、「区分A」については「商標X」「商標Y」「商標Z」が出願されたということがわかり、「区分A」の出現数は3であることがわかる。他の区分についても同様に再集計する。

 これにより、各「区分」ごとに、「どの商標が出願されたか」「出現件数(商標種類・件数)」等がわかり、出願人(競合企業)における「主力事業(区分)」等を抽出できる。また、これらの経時的変化を把握することで、出願人(競合企業)の事業構成や業態変化の把握が期待できる。

 ②「指定商品・役務」視点

 図13に示すように、まず、商標出願X,Y,Zそれぞれを、指定商品・役務ごとにバラバラにする。「商標X+商品a」「商標X+商品b」「商標X+商品c」「商標Y+商品a」「商標Y+商品b」「商標Y+商品d」のように分解する。そして、主従を逆にして指定商品・役務中心に再集計する。これにより、例えば、「商品a」については「商標X」「商標Y」「商標Z」が出願されたということがわかり、「商品a」の出現数は3であることがわかる。他の指定商品・役務についても同様に再集計する。

 これにより、各指定商品・役務ごとに、「どの商標が出願されたか」「出現件数(商標種類・件数)」等がわかり、出願人(競合企業)における「主力商品・役務」等を抽出できる。また、これらの経時的変化を把握することで、出願人(競合企業)の主力商品・サービス群や事業構成等の把握が期待できる。

 ここで、説明は省略するが、「類似群」等についても同様の分析ができる。事業と商品・サービスの中間的な視点であるが、出願人(競合企業)の事業活動の把握には区分、指定商品・役務よりも優れている場合があり、重要な視点である。

 ③事業情報との組み合せ

 上述の「区分」「指定商品・役務」視点での分析結果(出現数等)に売上・利益等の「事業情報」を組み合せることで、出願人(競合企業)の事業活動を分析する。例えば、各事業に対応する指定商品・役務の出現数(合計)と、売上・利益との関係を分析することで、事業戦略や特徴等の把握が期待できる。

 

(3)事業分析例

 ①区分を視点とした分析例

 表4は、区分(出現数)視点の事業分析例の内容を示すものである。表4に示すように、各区分ごとに集計・分析された「出現数」/「全体に対する割合」の推移が示されている。出現数は、各区分ごとの商標数(出願件数)でもある。全体に対する割合は、各年の出願件数(合計)に対する割合であり、各年における全出願のうち、各区分が含まれた出願の割合である。例えば、2015年における区分Aの割合は70%であり、これは区分Aが2015年の全出願のうち、70%の出願に含まれていることを示す。区分Aは、他の年でも安定的に件数・割合が高く、増加傾向にあることから、当該出願人における主力事業であることが把握される。同様に区分Bは、区分Aに次ぐ件数・割合であり、安定していることから準主力事業であると分析される。その他、件数・割合および推移により、区分Cが中堅事業、区分Dが主力から中堅に変化した事業、区分Eが急減に主力事業化したことがわかる。

  ②指定商品・役務を視点とした分析例

 表5は、指定商品・役務(出現数)視点の事業分析例の内容を示すものである。表5には、指定商品・役務ごとに集計・分析された出現数の推移が示されている。上述と同様に、出現数は、各指定商品・役務ごとの商標数(出願件数)である。合計は、各年ごとの出現数の合計であり、これは指定商品・役務の数も反映した商標出願の件数であり、実質的な商標出願の件数と考えることもできる。商標種類は、出願された商標の数であり、商標出願の件数でもある。

 

 表5に示すように、全体的には、種類数が増加しているので、新商品・サービスが増加していると考えられ、商品・サービスが拡充していると考えられる。また、種類数に対する出現の合計数は減少しているので、商標出願ごとの指定商品・役務数は減少していると予測される。

 各指定商品・役務については、まず、指定商品・役務aは、出現数が安定的に多く、増加傾向であるので、出願人における主力商品であることがわかる。2015年においては、商標種類数100に対して、指定商品・役務aの出現数も100であるので、出願人における全ての出願に指定商品・役務aが含まれていたことがわかる。2018年においては、指定商品・役務aの出現数は130で増加しているが、商標種類数が200であり、商標出願の65%に含まれており、その割合は減少していることがわかる。例えば、指定商品・役務c、hの出現数が急増していることから、商品・サービスのラインナップ増加や他事業の拡大が予想される。件数・割合および推移により、他の指定商品・役務についても各種視点で分析することができる。

 ③各事業に対応した指定商品・役務を視点とした分析例

 表6は、各事業を視点として、各事業に対応した指定商品・役務(出現数)視点の事業分析例の内容を示すものである。表6に示すように、各事業ごとに対応した指定商品・役務の出現数を合計した件数/全体に対する割合の推移が示されている。全体に対する割合は、各年の出願件数(合計)に対する割合であり、各年における全出願のうち、各事業の指定商品・役務が含まれた出願の割合である。例えば、2015年における事業Xにおける指定商品・役務の出現合計数の全体に対する割合は60%であり、2015年の指定商品・役務の出現数合計のうち、60%が事業Xの指定商品・役務に関するものであることを示す。事業Xは、他の年でも安定的に件数・割合が高く、増加傾向にあることから、当該出願人における主力事業であることが把握される。同様に事業Yは、2015年においては事業Xに次ぐ合計出現数・割合であったが、2018年においては事業Zの合計出現数・割合に逆転されている。事業Zは、2015年において、合計出現数・割合は低かったが、合計出現数・割合が順調に増加し、事業Yの合計出現数・割合を逆転している。上述から、事業Yが準主力から中堅事業に縮小し、事業Zが小規模事業から準主力事業に拡大したことがわかる。

 ④事業情報との組み合せ

 上述の各事業に対応する指定商品・役務の合計出現数と、売上・利益等の事業情報を組み合せることで、出願人(競合企業)の事業活動を分析する。

 

 図14は、各事業における出現数(合計)と売上との関係を示す。図14に示すように、各事業ごとに特徴が異なることがわかる。各事業の特徴を分析すると、事業Gは「多商品・高売上」,事業Hは「少商品・高売上」,事業Iは「少商品・低売上」,事業Jは「極少商品・中売上」となる。

 

 図15は、各事業における出現数(合計)と利益との関係を示す。図15に示すように、利益においても各事業ごとに特徴が異なることがわかる。各事業の特徴を分析すると、事業Gは「多商品・低利益」,事業Hは「少商品・高利益」,事業Iは「少商品・低利益」,事業Jは「極少商品・中利益」となる。

 上述より、事業Gは「多商品・高売上・低利益」,事業Hは「少商品・高売上・高利益」,事業Iは「少商品・低売上・低利益」,事業Jは「極少商品・中売上・中利益」となる。

 このように、「商標情報(および分析結果)」と「事業情報」とを組み合せることで、出願人(競合企業)の事業構成や状況を分析・把握することができる。

3)事業活動に寄与するネーミング

(1)概要

 事業活動において、売上・利益向上のためには、高い信用の獲得・蓄積と共に、他社との差別化が重要な戦略となっている。商標は、企業・ブランド・商品・サービスにおける目印・アイコンとしての機能を有し、売上・利益に影響を与える重要な要素である。ネーミングは、ブランドのイメージに対する影響だけでなく、商品・サービスの売上・利益や広告宣伝費等への影響もある。ネーミングは、知財部門だけでなく、事業部門の知財活動という意味でも非常に重要である。

 ここで、ネーミングは、商品・サービスを提供する事業部門の担当者が商品イメージやそれまでのブランドの流れ等を勘案し、個別に検討・提案する場合が多い。ネーミングは、事業活動において重要な要素であるにも関わらず、明確な指針が示されておらず、都度、良いと考えられるネーミングがなされているのが現状である。

 しかし、「どんな商標が良い商標なのか?」との質問に対して明確に回答できる知財担当者は非常に少ないと思われる。客観的に「良い商標」であることを示す評価指標等がないことも、その一因である。

 上述を踏まえ、「事業活動に寄与する商標」を「良い商標」として、商標情報を分析し、さらに事業活動の情報を組み合せて分析することで、ネーミングについて何らかの客観的な傾向を把握し、方針の提示することが望まれる。

 

 以下においては、「示唆的商標」に注目し、「示唆的商標」と「独創的商標(非示唆的商標)」とを比較しながら、「事業活動に寄与する商標」についての視点等を検討する。詳細には、「示唆的商標の割合(示唆率)」「示唆率と、営業利益/売上、広告宣伝費/売上および広告宣伝費/営業利益との関係」を分析することで、企業活動において独創的商標と示唆的商標とでは、どちらが、どのような場合に有益なのかについての検討を通じて、上記視点を検討する。

(2)示唆率

 上述のように、企業が出願した商標のうち示唆的商標の割合(示唆率)は、おおよそ40~90%、平均72.1%であるという調査結果がある(5分野/42社)。

 また、表7に示すように、各分野ごとの比較としては、化学(日用品)分野が77.4%、食品・飲料分野が78.0%と示唆率が高く、電子機器分野が64.1%、スポーツ用品分野が61.2%、輸送機分野が51.1%と示唆率が低くなっている。各商品等における用途、機能、品質や効果等を主張しやすい分野においては、示唆率が高くなる傾向があると考えられる。逆に、複合技術の分野等では、商品ごとの用途、機能、品質や効果等を主張しにくく、示唆率が低くなっていると考えられる。

(3)事業情報との組み合せ

 上記「示唆率」に事業情報である「営業利益/売上」「広告宣伝費/売上」「広告宣伝費/利益」を組み合せることで、事業活動に寄与する商標の視点を抽出する。

上述の調査における5分野/42社についての分析結果に基づいて、簡単に説明する。

 ①示唆率-営業利益/売上

 図16に示すように、示唆率が低いほど、営業利益/売上が高い傾向があることがわかった。つまり、示唆率が低い、言い換えると独創的商標の割合が高いほど、利益率が高いことが示されている。

 

 これは、高い利益率を達成するためには、ブランド力が必要であることを示す結果の一つであるとも考えられる。

 ②示唆率-広告宣伝費/売上

 図17に示すように、示唆率が高いほど、広告宣伝費/売上が低い傾向があることがわかる。示唆率が高いほど、同じ売上に必要な広告宣伝費が少ないことが示されている。つまり、示唆的商標を多くすることで、同じ売上を達成するために必要な広告宣伝費を抑制できる(少なくできる)ことが示されている。宣伝広告費を少なくしたい企業や中小企業等に有益な視点である。

 

 ③示唆率-広告宣伝費/利益

 図18に示すように、示唆率が低いほど、広告宣伝費/利益が低い傾向があることがわかる。つまり、示唆率が低いほど、言い換えると、独創的商標の割合が高いほど、同じ営業利益に必要な広告宣伝費が少ないことが示されている。

 これは、①で述べたように、ブランド力が高いほど利益率が高いという結果に関連していると考える。つまり、ブランド力が高いほど(高いブランド力を獲得後は)、高利益率となり、同じ営業利益を達成するために必要な広告宣伝費が少なくできることが示唆されている。

 

 ④各分野ごとの特徴

 上述においては、5分野42社の全体についての分析結果・傾向を説明している。ここで、各分野ごとに、分析結果・傾向に特徴がある。表8に示すように、各分野における「示唆率―営業利益/売上」「示唆率―広告宣伝費/売上」「示唆率―広告宣伝費/営業利益」の分析結果・傾向には、各分野ごとに特徴がある(各項目の表示は近似線の傾き(傾向)を示している)。ネーミングにおいては、各分野ごとの傾向・特徴に留意する必要がある。

(4)ネーミング

 上述の分析結果より、全体としては、まず、高い営業利益率とするためには独創的商標の割合を多くし、活発なブランド活動により高いブランド力を得ることが有効であることが示唆された。また、示唆的商標の割合(示唆率)を高くすることで、同じ売上に対する広告費を低くできることが示唆された。ここで、各分野ごとに特徴が異なるため、各分野ごと特徴・傾向を考慮して商標タイプを設定する必要がある。

 事業戦略・業界内のポジション等により、新商品・サービス名として「示唆的商標」を選択した場合、図8に示す「示唆系①」の「機能」「用途」「効果」「対象」「構成」「分野」等を視点として、示唆的商標を検討する。

 また、独創的商標(非示唆的商標)を選択した場合、「非示唆系」の「造語」「キャラクタ」「イメージ」「コーポレートブランド」等を視点として、独創的商標を検討する。

 上述のような視点によりブランドや商品・サービス等のネーミングを検討することで、単なる思いつきや従来の踏襲でネーミングをするのではなく、「事業活動に寄与する」という視点でネーミング活動を行うことができる。

 

4.商標情報等に基づく知財戦略

1)第4次産業革命への対応(商標の側面)

(1)業態変化(サービス化・ソリューションビジネス化)

 「区分」「指定商品・役務」を分析することで、サービス化、IoT・AI等の第4次産業革命に関するサービス事業の進行等を確認する。

 

 ①役務区分の増加

 役務区分(第35~第45類)の件数・割合は増加している。図19に示すように、各年における商標出願全体に対する「商品区分(第1~第34類)」と、「役務区分(第35~第45類)」の割合(%)および推移を比較する。図19より、「役務区分」の割合が増加し、2016年には「商品区分」を逆転し、近年では「役務区分」の割合(%)の方が高くなっていることが確認できる。

 また、表9に示すように、役務区分全体(第35~第45類)では、2013年から2018年の5年で約4.5倍に件数が増加している。役務区分は、いずれも増加傾向であるが、特に、45類、39類、38類、37類、42類の増加が大きい。

 上述の結果より、サービス化が進んでいること、および企業がサービス化に対応していることが確認できる。 

 ②第4次産業革命技術のサービス事業化

 第4次産業革命の技術キーワードを含む「指定商品・役務」を調査した。表10に示すように、「人工知能」「仮想現実」「拡張現実」「自動運転」「機械学習」「仮想通貨」等の第4次産業革命の技術キーワードを含む「指定商品・役務」が存在することがわかった。第4次産業革命の技術キーワードを含む「指定商品・役務」は、役務区分に多く含まれていることがわかった。

 上記結果より、第4次産業革命技術のサービス事業化が進んでいることがわかった。

(2)第4次産業革命の技術ワードを含む商標

 第4次産業革命の技術ワードを含む商標の出願状況を確認した。表11に示すように、「IoT」「AI」「CPS」「ブロックチェーン」「フィンテック」「シェアリング」「5G」「RPA」等を含む「商標」が一定数以上存在することがわかった。また、上述の商標において、2015年以降の出願されている件数も一定数以上存在することがわかった。2015年以降の出願は、は第4次産業革命のキーワードであることを認識して出願されたものであると考えられる。

 上述の結果より、商標分野においても、第4次産業革命の影響が及んでいることが確認された。また、上述の結果は、第4次産業革命の技術ワードについて、商標出願競争等が生じ得ることが示唆されている。今後は、事業分野を越えた共通の「技術ワード」について出願競争が生じ得ることが認識された。

2)ブランド構造の変化(ソリューション化・サービス化)

 上述の調査結果により想定されるブランド構造の変化について検討する。具体的には、サービス化、ソリューションビジネス化により生じるブランド構造の変化について検討する

 上述の調査結果より、サービス化・ソリューションビジネス化の進行が確認された。サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、ブランド構造に変化が生じ得る。特にメーカーにおいて、例えば、下記のようなブランド構造の変化が生じる。

 

 ①ソリューションブランド・サービスブランドの上位化

 従来、特にメーカーにおいて、製品ブランドが中心・上位であり、サービスブランド等は、製品ブランドの下位であった。例えば、製品を構成するソフト・サービスのブランド等、製品ブランドの下位に位置づけられる場合が多かった。

 しかし、ソリューションビジネス化の進行等により、メーカーにおいてもソリューションやサービスの提供が中心となり、機器の販売等は事業の中心ではなくなってきている。そのため、図20に示すように、ソリューションブランドやサービスブランドが上位化してきており、製品ブランドは下位化する流れである。そのため、これまで製品が中心であったネーミングの視点も変化する。製品ブランド名・製品名は、サービス・ソリューションブランドのイメージや方針に沿った(邪魔しない)ネーミングである必要がある。

 ②技術視点のブランドの検討・拡張

 従来のモノ・サービスブランドに加えて、「技術ブランド」、上述の「ソリューションブランド」「エンジニアリングブランド」等、技術視点のブランドが増加してきている。これは、第4次産業革命の技術がサービス化されている流れが関係していると考える。ブランド・商標部門においても「技術」「イノベーション」「ソリューション」に関する理解と対応が求められるようになってきている。

 

 ③共通技術(例えば、IoT,AI)についてのブランド化・出願競争

 上述の通り、第4産業革命の技術ワードを含む商標が出願されている。イノベーティブなイメージは企業活動にとって大きなプラスであることから、今後も革新的な技術に関するワードを含む商標出願がなされると予測される。ここで、第4産業革命の技術ワード等の商標出願においては、従来の事業面での競合企業のほか、事業分野を越えた競合(事業では競合しない企業とも競合)が生じる点は留意点である。事業分野を越えた出願競争が生じ得る。

 

 ④ブランド体系の再構築・整合

 上述の通り、サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、図20および図21に示すように、ブランド構造が変化し、①ソリューションブランド・サービスブランドの上位化、②技術視点のブランドの増加、③共通技術(例えば、IoT,AI)についてのブランド化・出願競争等が生じる。ブランド構造において、複合的な変化が生じているため、「全社的なブランド再構築」が必要になってきていると考える。「ブランド構造の再構築」に加え、「ネーミングの視点」「体制」等についても、同時に再調整・構築する必要がある。

3)ブランド・商標体制

 上述のブランド構造変化に対応するための「ブランド・商標体制」について検討する。図22に示すように、ブランド・商標部門は、サービス・ソリューションビジネス化により、従来よりも多くの事業部と連携した活動が必要になる。また、技術視点のブランド(技術ブランド、ソリューションブランド、エンジニアリングブランド等)についても対応する必要があり、更には、第4次産業革命の技術キーワードのブランド化等、研究開発部門との連携・調整が必要になってくる。また、場合によっては特許出願の内容を確認しながら「技術ワード」を抽出して、自社ブランド化を提案するような活動が求められるようになると思われる。そのため、ブランド・商標部門は、「研究開発」部門との密な連携が求められるようになり、ブランド・商標担当者に対しても、先端技術の理解・知見が求められると考える。今後は、ブランド・商標担当者として、研究開発部門の経験者を専任または兼任とするような対策も必要になると考える。

6.おわりに

 以上、「商標情報等を利用した知財活動」および「商標情報等に基づく知財戦略」について、説明・提案した。

 上記においては、まず、商標情報に基づく「新商品予測」や「事業分析」について説明した。

 また、商標情報分析により、事業活動に寄与する商標タイプについて検討し、ネーミング視点について提案・説明した。

 そして、商標情報により、「サービス化・ソリューションビジネス化」の進行や「第4次産業革命の進行による影響」について確認した。更に、サービス化・ソリューションビジネス化の進行や第4次産業革命の進行の影響として「ブランド構造の変化」が生じること示し、「ブランド構造の変化」に対応する「ブランド再構築」や「体制」について提案・説明した。

 上述した「商標情報等を利用した知財活動」および「商標情報等に基づく知財戦略」が事業活動や知財活動に役立つことを期待する次第である。

 

[参考文献]

[1]特許庁, "特許出願技術動向調査等報告," [オンライン]. Available: https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/index.html [アクセス日: 2019年12月16日].

[2]内閣府, “日本経済2016-2017 第2章 新たな産業変化への対応,” [オンライン]. Available: https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html. [アクセス日: 2019年10月15日].

[3]乾利之,田中義敏,“商標情報および特許情報を利用した新商品予測に関する考察”,日本知財学会第12回年次学術研究発表会予稿集,2014.

[4]乾利之,田中義敏,“商標情報を利用した事業分析に関する考察”,日本MOT学会第6回年次研究発表会予稿集,2015.

[5]乾利之,田中義敏,“企業活動において示唆的な商標と独創的な商標とではどちらが有益か?”,日本知財学会第13回年次学術研究発表会予稿集,2015.

[6]Toshiyuki Inui, Yoshitoshi Tanaka, "How can we predict the new products and services by using the trademark information and the patent information?", Portland International Center for Management of Engineering and Technology (PICMET) 2016 Proceeding, pp. 1478-1486, 2016.

[7]乾利之,田中義敏,“第4次産業革命による業態変化が知財戦略・活動に与える影響についての一考察”,日本知財学会第17回年次学術研究発表会予稿集,2019.

[8]特許庁, “-企業における個別商品・役務等に係る商標出願戦略等状況調査-(要約版)”, 商標出願動向調査報告書, p. 14, 平成19年度.

[9]文部科学省科学技術・学術政策研究所,“研究開発・イノベーション・生産性( RDIP

データベース“ , [オンライン]. Available: https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/RDIP_DB_notes.pdf [アクセス日: 2019年12月16日].

[10] INPIT, “J-PlatPat 特許情報プラットフォーム,” [オンライン]. Available: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/. [アクセス日: 2019年11月].

 

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