第4次産業革命の進行により、サービス化・ソリューションビジネス化が進行している(ご参照:商標情報を利用した知財活動および知財戦略の検討)。サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、ブランド構造に変化が生じ得る。特にメーカーにおいて、主従逆転するようなブランド構造の変化が生じ得る。
以下に、背景、ブランド構造の変化の内容、ブランド体系の再構築・整合について、簡単に説明する。
近年、事業活動を取り巻く外部環境は大きく変化している。特に、第4次産業革命の進行の影響は大きいと考える。例えば、Society 5.0において、第4次産業革命の技術革新は、単に技術面の革新ではなく、社会解決を解決する手段と捉えられている。その結果、革新的な技術は、様々なソリューションやサービスとして具現化され、社会に提供されることが予測される。従来のように、製品、モノではなく、ソリューションやサービスの提供が重要になっている。
下図に示すように、技術的にはIoT、ビックデータやAIの活用等のデータ主導化が進み、事業的にはサービス化やソリューション化等が進んできている。第4次産業革命により、企業における業態が大きく変化してきている。そして、このような変化は、ブランド構造や商標活動・戦略にも大きく影響する。
サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、ブランド構造に変化が生じ得る。特にメーカーにおいて、下記のようなブランド構造の変化が生じ得る。
1)ソリューションブランド・サービスブランドの上位化
従来、特にメーカーにおいて、製品ブランドが中心・上位であり、サービスブランド等は、製品ブランドの下位であった。例えば、製品を構成するソフト・サービスのブランド等、製品ブランドの下位に位置づけられる場合が多かった。
しかし、ソリューションビジネス化の進行等により、メーカーにおいてもソリューションやサービスの提供が中心となり、機器の販売等は事業の中心ではなくなってきている。そのため、下図に示すように、ソリューションブランドやサービスブランドが上位化してきており、製品ブランドは下位化する流れである。
そのため、これまで製品が中心であったネーミングの視点も変化する。製品ブランド名・製品名は、サービス・ソリューションブランドのイメージや方針に沿った(邪魔しない)ネーミングである必要がある。
2)技術視点のブランドの検討・拡張
従来のブランドに加えて、「技術ブランド」、「ソリューションブランド」「エンジニアリングブランド」等、技術視点のブランドが増加してきている。これは、第4次産業革命の技術がサービス化されている流れが関係していると考える。ブランド・商標部門においても「技術」「イノベーション」「ソリューション」に関する理解と対応が求められるようになってきている。
3)共通技術(例えば、IoT,AI)についてのブランド化・出願競争
第4産業革命の技術ワードを含む商標が出願されてきている。イノベーティブなイメージは企業活動にとって大きなプラスであることから、今後も革新的な技術に関するワードを含む商標出願がなされると予測される。ここで、第4産業革命の技術ワード等の商標出願においては、従来の事業面での競合企業のほか、事業分野を越えた競合(事業では競合しない企業とも競合)が生じる点は留意点である。事業分野を越えた出願競争が生じ得る。
上述の通り、サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、ブランド構造が変化し、①ソリューションブランド・サービスブランドの上位化、②技術視点のブランドの増加、③共通技術(例えば、IoT,AI)についてのブランド化・出願競争等が生じる。
ブランド構造において、複合的な変化が生じているため、「全社的なブランド再構築」が必要になってきていると考える。上記変更①から③を踏まえると、例えば下図のようにブランド構造を再構築する必要があると考える。
また、「ブランド構造の再構築」に加え、「ネーミングの視点」「ブランド・商標体制」等についても、同時に再調整・構築する必要がある。
上述のブランド構造変化に対応するための「ブランド・商標体制」について検討する。下図に示すように、ブランド・商標部門は、サービス・ソリューションビジネス化により、従来よりも多くの事業部・部門と連携した活動が必要になる。
ブランド・商標部門は、事業部、マーケティング部門、研究開発部門、特許部門等、多くの部門と連携する必要があると共に、とりまとめ役になることが求められる。
また、ブランド・商標部門は、技術視点のブランド(技術ブランド、ソリューションブランド、エンジニアリングブランド等)についても対応する必要があり、更には、第4次産業革命の技術キーワードのブランド化等、研究開発部門との連携・調整が必要になってくる。また、場合によっては特許出願の内容を確認しながら「技術ワード」を抽出して、自社ブランド化を提案するような活動が求められるようになると思われる。
そのため、ブランド・商標部門は、「研究開発」部門との密な連携が求められるようになり、ブランド・商標担当者に対しても、先端技術の理解・知見が求められると考える。今後は、ブランド・商標担当者として、研究開発部門の経験者を専任または兼任とするような対策も必要になると考える。
サービス化・ソリューションビジネス化の進行により、ブランド構造に変化が生じ得る。そのため、「ブランド構造の再構築」に加え、「ネーミングの視点」「体制」等についても、同時に再調整・構築する必要がある。
ブランド・商標部門は、技術視点のブランド(技術ブランド、ソリューションブランド、エンジニアリングブランド等)、第4次産業革命の技術キーワードのブランド化等にも対応する必要があり、研究開発部門との連携・調整や研究開発部門の経験者を担当者にするような対策も必要になると考える。
全社の企業活動・ブランド戦略に大きな影響があるため、ブランド・商標部門主導による早急な対応が必要であると考える次第である。
[参考文献]
・内閣府, “日本経済2016-2017 第2章 新たな産業変化への対応,” [オンライン]. Available: https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html. [アクセス日: 2019年10月15日].
・乾利之,田中義敏,“第4次産業革命による業態変化が知財戦略・活動に与える影響についての一考察”,日本知財学会第17回年次学術研究発表会予稿集,2019.
・特許庁, “-企業における個別商品・役務等に係る商標出願戦略等状況調査-(要約版)”, 商標出願動向調査報告書, p. 14, 平成19年度.
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